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ヴィドールは神妙な顔つきで「これはあくまで内々の事情だが」と断り、話を続ける。
「これまで殿下は世継ぎであることを踏まえ夜のお相手をベータに限っていた。この理由もわかるだろう。オメガなどというふしだらな人間を殿下のような高貴なお方に近付けるわけにはいかないのだ。ましてや夜のお相手などとんでもない。――だというのに」
ヴィドールの話によるとどうやらカシウスは、性行為自体は経験済みだったがオメガとの行為は本当に初めてだったらしい。
この話を聞いてジェレミーも合点がいった。
あの夜、カシウスが初心な反応を示していたのは嘘でも建前でもなんでもなく、真実戸惑っていたということである。
カシウスなどの王位継承権を持つ者に限らず、王族に連なる者や貴族たちは正室のほかに複数の愛人を持っていたり、また番に限ってはこと公にはしないものの側室として認められていたりして、世継ぎである王子が番を持つこと自体に問題はない。
だがその番の相手は男女問わず子をなすことができるため、慎重に選ばねば国が混乱しかねないという理由から、カシウスはこれまでオメガとの接触を極力避けるようにして過ごしてきたという。
これにはさしものジェレミーも開いた口が塞がらなかった。
カシウスは大層可愛がられ、甘やかされて育ったそうだが、それにしてもやりすぎではないだろうか。オメガを魔物かなにかだと勘違いしているか、もしくは手をつないだだけで子ができるとでも思っていそうだ。
二十六歳でそんなふうでは先が思いやられる……などとジェレミーは呆れたが、そうやって人の心配をしている場合ではなかった。
「貴様はそんな純真無垢なるカシウス殿下をみだりにたぶらかしおって……!」
「えっ!? い、いやそんなつもりでは、」
と反論しようにも、実際たぶらかす気満々だったわけでそこから先が続かない。
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