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 いま自分が責められているのは結局、「オメガの色気に当てられたアルファの王子が初めての経験におろおろしているだけ」の話である。  許しを得ずに(そしてやや強引に)コトに及んだのはまあちょっと悪かったかなと思いはするものの、カシウスだってあきらかによがっていたではないか。あの一夜に限っては、得こそすれ損はなかったはずだ。  それに、カシウスがこれまでオメガとの接触を控えていただのなんだのも完全にそっちの事情であって自分のせいではない。どう責任をとるつもりだと言われても「知らんがな」と言うよりほかなかった。  もとより、そんな主張は初々しい姫君にこそ相応しいものであって、二十六歳のアルファの王子が声高に叫ぶようなものでは決してない。 「そんなつもりでなかったら、どういうつもりだったというのだ!?」 「え、えー……ですから、えぇっとぉ……」  赤茶の波打つ長髪をきっちりと真ん中で分けた、見たところ三十がらみの側近に「ウチのかわいい王子殿下をどうしてくれる」とばかりに詰め寄られ、ジェレミーはもうなかば自棄になって次の言葉をひねり出した。 「そっそう、そうです、憚りながら実はわたくしもヴィドール殿と同じ懸念を抱いていたところでございまして――」  馬鹿げた話とはいえ、このままでは不敬罪に問われるおそれもある。  となれば、ここで引き下がるわけにはいかなかった。「危機を好機と転じる者だけが生き残る」と父ダニドもよく口にするではないか。

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