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「いえ、たいしたことではないのですが……実はヴィドール殿のお耳に入れて差し上げたいことがございまして……このたび我がクラヴェル商会では二日酔いによく効く薬を北方の国から入手しましたのでいかがかなと」 「二日酔いだと? そんなものがいまの話になんの関係が――」  そこまで言ってヴィドールの顔色が変わった。  なにがしかを思い出して血の気を引かせたヴィドールに、素知らぬフリで追い打ちをかける。 「これさえあれば大酒の翌朝もすっきりという優れもの。ご入用であれば急ぎ実家から送らせますが――」 「い、いや、」 「あぁそれとも紙とペンのほうがよろしいでしょうか。酒の席でご自身が何杯飲んでいるのかその場で記録していれば飲み過ぎるということもないでしょうし、これはあくまでたとえばの話ですが主君とともに出かけた視察先で深夜に泥酔あそばされるようなことにもなら」 「こら、こらやめないか……! い、いや違うんです殿下、あのときは領主の息子がどうしても言ってこちらが断るのも聞かず――」 「ヴィドール……どおりで呼んでもこないと思ったら、おまえ……」  あの視察の夜、「邪魔されないようあの側近を酔い潰しておいてくれ」とノーランに頼んでいたことがここでも役に立ったというわけだ。  王子とその側近はそろって頭を抱えていた。  自分たちでは敵わないと悟ったのか、それともこれ以上の醜態を晒すのを避けたかったのか、やがて渋々といった顔で「もういい、わかった」とカシウスが降参する。  ただ、これではあんまりだと考えたのだろう。  カシウスはどうにか体裁を取り繕い、大きく息を吸い込むと今日イチ尊大な態度でジェレミーへと向き直った。 「だが思い上がるなよ。わたしを満足させられなければすぐにでもクビにしてやるからな!」  びしりと突き付けられた指の先、ジェレミーはにこりと微笑み、優雅に礼をしてみせる。 「どうぞ、殿下の御心のままに」    ――かくしてジェレミーは城に滞在することを許されることとなったのだった。

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