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「そういえば、昨日ドレンヌ公爵閣下とおぼしきお方とすれ違ったのですが、あの方はこの城にお住まいなのですね」
城に滞在することが決まった翌日、カシウスの執務室に向かう途中でジェレミーはそのニコラウスについてヴィドールに訊ねた。
ほんの一瞬すれ違っただけであったが、ニコラウスのあの発言は気になった。
あれほど堂々と世継ぎの君に対し批判的な言葉を吐くなど、よほど思うところあってのことだろう。普通に考えたら許されるはずはないが、誰もなにも言わなかったのも気にかかる。
城内の力関係を把握しておいて損はない。身の振り方で下手を踏まないためには大事なことだ。
「ああ、ドレンヌ公は領地ドレーヌをそのままにここで暮らしておられる。公は以前、王位継承権第二位の地位にあり、遠い領地より国王陛下のお膝元でお過ごしになられるようにとの配慮からであったが――カシウス殿下がお生まれになり王位継承順位がお下りあそばされても領地にお戻りになるご様子もない」
ドレンヌ公ニコラウスは、イテュール王国の国家元首であるアーロン王とその妻カーラ妃のあいだに生まれた六人の娘たちのなかでも一番上の娘、第一王女ルイーゼの夫で、カシウスからみれば義兄にあたる。
現国王からみれば娘婿に当たる人物が王位継承権を持つこと自体あまり例にみないが、イテュール王国の王位継承権は男子に限られているため、カシウスが生まれるまで暫定的にニコラウスが王位継承順位第二位の地位にいたらしい。
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