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46.
「ではゆくぞ――失礼いたします、殿下」
ヴィドールに続いて執務室に入ると、あらかじめ言われていたのかカシウスはジェレミーを見てもなにも言わなかった。
ただ、相変わらず視線は冷たい。
表向きの役割に従って、昼間はジェレミーもカシウスの執務に立ち会うことを許された。国の政をこんなに近くで目にする機会なんていまを逃せばもうないだろうし、これはジェレミーにとって思わぬ幸運となった。
とはいえ一介の商人に国の政をそのまま見せるわけにはいかないので、居並ぶ文官らの末席に座り、書類整理などをするだけである。文官らはちらりとこちらを見遣ったのみで、ジェレミーをいないものとして扱うようだった。
ヴィドールの仕切りで次々と案件が捌かれてゆく。話し合い、議論し合っているのはおもに文官らで、カシウスは決定事項にサインをするのみだった。
その合間にちらちらと視線を寄越されて、ジェレミーは席に着いて早々に頭を抱えたくなった。
そのような態度ではこの場にいる全員に「わたしはあの者を全力で気にしている」と大声で宣言しているも同然である。
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