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56.
用向きを終え、店を出たときにはあたりは陽が傾き始めていた。街の人波は途切れることもない。
ジェレミーは街角の露店で腹ごしらえし、しばらく城下の街並みを眺めて過ごした。
香草と塩で味付けした羊肉の串焼きを片手にワインを呷る。腹もふくれていい気分になってきたところで陽気なヴィオラの音が響いてきた。二、三人が通りの片隅で演奏をはじめ、まわりの者たちが手に手をとって踊り出す。
メールの街も十年前、二十年前に比べたら見違えるほど発展したと故郷の人々は口をそろえる。それでもやはり、この王都のにぎわいには遠く及ばない。
人が集まるところには必ず売り買いが発生する。人が多ければ多いほど、その売り買いの規模は大きくなってゆく。
いつか、自分もこの王都で商いができたら――それは幼いころ、弟とふたりして父に連れてきてもらったときに抱いた夢だった。
バース性が判明し、自分がオメガだとわかってからはその夢もあきらめかけていた。
王都での商業権を得るには金も必要だがなによりツテが重要だった。父ダニドでさえ王都での商業権はいまだ手にできていない。
それを自分のような半端な商人が手にするなんて、夢のまた夢といったところだろう。
「まったく、世知辛いったらないね……」
普段は、というより故郷ではあまり意識することのないこの世界の側面を思い出し、またもや落ち込みそうになる。
夕闇迫るなかを城へと戻るころには、再び気鬱がぶり返そうとしていた。
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