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考えた末に、ジェレミーはカシウスを酒の席に招くことにした。表向きは客員教授のような立場でそのようなことが許されるのかヴィドールに相談してみると、今回は特別にということで許可ももらえた。
当日は早くから準備に走り回った。ヴィドールから許しをもらえたとしても食器やテーブルまわりのこまごまとした物を用意するのは城の使用人たちであって、これが最初うまく言うことを聞いてくれず困ったが、金の力で解決した。
やはり頼るべきは金、金の力である。
ジェレミーは厨房を取り仕切っているらしい男に目を付け、こっそりと金貨を手渡した。
五十がらみといった外見のその小男は、にひひ、と笑って肘で小突いてきた。
「旦那のことはウワサになってましてな。なにやらカシウス殿下にシモの手ほどきをして差し上げてるんですって?」
下級貴族出のジャンという名のその男は、下世話な話がなにより好物と言い、「こう見えてアタシもむかしはずいぶん羽振りがよかったんですがね、ええ、いまはこのとおりってね」と首をすくめて笑った。
こういう男は嫌いじゃない。おしゃべりとは情報の流通だ。そのことを知っている者は、人生を生き抜く術に長けている。
思ったとおり、ジャンはなにかと事情通だった。こちらがひとつ訊ねれば十返してくれる。
これは良い取引をしたものだと気分をよくしていたら、ジャンの次の言葉にジェレミーは固まった。
「しかし旦那もやりますなぁ。どうやら殿下、いまはほかの〝お気に入り〟も遠ざけているとかっていう話ですぜ」
その話は初耳だった。
カシウスが、自分以外と寝ていないだって?
その話が本当なら、彼はもう二十日近く誰とも行為に及んでいないということになる。
――それはそれで問題があるような気がする。
ジャンの話を聞いてジェレミーの脇にたらりと汗が流れた。
てっきり、自分以外とは寝ていると思っていた。ジャンの言う〝お気に入り〟とやらだってひとりやふたりではあるまい。いやあくまで想像だけど。王族で、しかもアルファとなればそのくらい余裕かなって。
その想像が誤りであるならば――と考えたところでジェレミーはぶんぶんと首を振った。
やめよう。
いま考えたってしょうがない。
とりあえず体力は温存しておくことにして、ジェレミーは酒宴に臨む。
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