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第四章 82.

「ジェレミー、こちらの書類にも目を通してくれないか」 「あ、はい」 「それから、先日の茶会で話に上がっていた絹糸の取引について意見が聞きたい。サティ家の者はああ言っていたが実情は少々あやしいと踏んでいてな、おまえの意見も参考にさせてくれ」 「はあ……」  てきぱきと執務に取り組むカシウスのかたわらで、ジェレミーはいかんともしがたい居心地の悪さを味わっていた。  執務室の空気は妙にしらけていた。とくに文官たちからの視線が気まずいことこのうえない。  そのことに気付いていないのはカシウスのみで、これまでになく仕事を振られるジェレミーも、普段ならば率先してカシウスの執務を取り仕切るヴィドールも、この場をどう取り繕うべきか困惑するしかなかった。 「おそれながら殿下、絹糸の取引に関してはわたくしもあまりくわしくなく――」 「ヴィドール、ジェレミーに資料を」  空気を読んで何度か断ろうとするも、カシウスには通じなかった。  こうあからさまでは、もとから職務についている文官たちはいい気がしないだろう。せっかく風当たりが弱まってきていたというのに、台なしである。

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