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実のところ、ジェレミーも困っていた。
これまでオメガとの接触がなかったアルファのカシウスを、オメガである自分を通してその存在に慣れさせること――それが自ら提案した自分の役目であり、この城に留まる理由でもあったはずだ。少なくともカシウス本人や側近のヴィドールはそういう認識であるだろう。
だがジェレミー自身にはもっとほかの目的があった。番まではなれなくても愛人くらいには、というアレだ。
それを目的としていたからにはいまのカシウスの変化は歓迎すべきことであったのだが、これほど露骨に態度に現れるとなると、またほかの懸念が浮かんでしまう。
王家だのなんだのの愛憎劇とやらに巻き込まれたくはない。人間の嫉妬というものはとかくおそろしいものであるというのをジェレミーは実家の商売を通じて知っていた。身分もなにもない、いわばぽっと出の自分が世継ぎの君からの寵愛を受けるとなればそれなりの覚悟がいる。
できればひっそりと寵愛されるというかたちが一番望ましいのだが、さすがにそこまで都合よくは運ばないらしい。
いまのところカシウスのまわりで寵を争うような出来事は起こっていないようだが、それも時間の問題のような気がする。
「とにかく、一旦距離を取ってみて様子をみるしかないな。そのあいだにほかのオメガの者とも接触を持たせて……うむ、今度はオメガ女性との席を設けてみるか」
眉間にしわを寄せ、ヴィドールが妥当な案を口にする。
そうですね、それがいいかもしれません――そう応えようとして、ジェレミーは口籠った。
自分からそう言ってしまうのは、なんだか気が進まなかった。
自分以外の人間とカシウスが肌を重ねるのかと思ったら、途端に気が重くなる。
執務室へ戻ってゆくヴィドールを見送りながら、いましがた言ったことをこれからカシウスに伝えるのだなと思ったら、いますぐあの有能な側近が盛大にコケてしまわないかなとつい考えてしまうほどに。
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