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 いまだ顔も見せてくれない相手に、ジェレミーは詫びの言葉を口にして頭を下げた。  退出しようとしたら、「待て」と声がかかった。 「……昨日の男は誰だ」 「はい?」  唐突にカシウスが訊いてきて、振り返る。  カシウスの顔はまだ枕に埋もれていた。 「昨日、おまえを訪ねてきた男だ。城門まで仲良く歩いていただろう」  っあーー。  はい。はいはい。  なるほどね。  ジェレミーはただちにこの状況を理解し、カシウスに話して聞かせた。 「あれはノーラン・ブロアという男で、故郷での幼馴染ですよ。父親がメールの領主で……そうそう、殿下がメールへ視察に訪れてくださったときにもお会いしているはずですが」 「そんな田舎領主の息子のことなぞ覚えていない」 「まあまあ、そう言わずに……僕の様子を見に来てくれたんです。ここに来てもうひと月以上経ちますし、心配してくれていたみたいで」  そこでようやくカシウスはゴソゴソと起き出し、顔を見せた。  じと、と拗ねたような視線が黒髪のあいだからのぞいている。  要は嫉妬しているのだ、この王子様は。

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