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まさかノーラン程度の男にまで嫉妬するなんて、と思いつつ、その程度扱いをしてしまった本人の言が当たっていたこと含め、心の中で一応詫びる。
「あんなに楽しそうにしているおまえをはじめて見た。よもや将来を約束した仲ではあるまいな」
「まさか。そういうふうに誤解されることすら不本意なほどの悪友ですよ」
「そうか……それならよかった」
なにがよかったのだろう。
と、ジェレミーは疑問に思うも、そこは考えないことにした。
あまり考えないほうがいい、という直感がしたからだ。
「では殿下。今日はどうされますか? 朝食のお時間は過ぎていますが、なにか軽食を持ってくるよう伝えましょうか」
「ああ、頼む――ジェレミー」
「はい?」
寝ぐせのひとつもないさらさらの黒髪をかき上げながら、カシウスは目を泳がせていた。
なにか言いたいことがあるとき、カシウスはなかなか目線を合わせない。
少し待ってみたが、「いや、いい」と結局カシウスが口をつぐんだのでジェレミーは部屋から退出した。外に控えていた侍女たちにカシウスの身支度と軽食の用意を頼み、部屋へと戻る。
カシウスはなにを言おうとしたのだろうか。
部屋に戻りながら考えたが、なにも浮かんではこなかった。なんとなく、こんな感じの言葉かなという想像はできたけれど、そのどれもがあまり聞きたくはないものだった。
いや、自分が聞きたいか聞きたくないかではなく、問題はカシウスが言っていいものなのかどうか、ということだ。もっと言うならば、カシウスの立場で、である。
きっとそれは許されないはずだ。自分は言われたらうれしいけれど、でも――
「そうか、うれしいのか、俺……」
足をとめ、茫然として呟く。
その日から幾日も経たずにジェレミーは発情期を迎えた。
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