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 そうやって仕事に励んでいても、不意にカシウスの姿が脳裏によみがえると、ジェレミーはどうしようもなく苦しくなった。  なんで、悲しい、どうして信じてくれなかったの――さまざまな想いが去来し、夜ひとりで過ごしていると涙がとまらない。 『正式に抗議したらどうだ、クラヴェルの名前で。なんならウチの親父の名前も貸してやるぞ』  耐えられずに洗いざらい事情を話して聞かせたノーランからは、そのような申し出も寄越された。  気持ちはうれしかったが、そういった気にはなれないと告げると彼はまるでわがことのように肩を落とした。 『ありがたい申し出だがな、ノーラン。申し訳ないことに王家にとっちゃあブロア卿の名なんて吹けば飛ぶような葉に等しい。気持ちだけ受け取っておくよ』 『おまえウチの親父になんか恨みでもあったりする?』 『ついでに言えばおまえのこともカシウス殿下は覚えておられなかったぞ』 『うっそだろ。俺けっこう印象的な自己紹介したはずだぜ?』 『イチからやり直せよ。そうだな、まずは三歳くらいから』 『先が長ぇよ』  下手な慰めよりもノーランとの軽口のほうが心も軽くなる。  なにも言わず付き合ってくれる幼馴染に心のなかで感謝して、「先がないよりはマシだろ」と笑い合った。

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