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109.
――忘れたほうがいいのだろうな。
夕陽の差し込む部屋でひとり、ジェレミーは思う。
簡単に忘れられるようなことではないけれど、忘れなければこの先やっていけないような気がした。
このままずっと実家にいるわけにはいかない。自分がいたままじゃあ弟が気兼ねする。であれば、もともと考えていたように金持ちのアルファを見つけて嫁ぐしかないだろう。
しかしいまの状態でカシウス以外の相手を探すことなど到底無理に思えてならなかった。
「ジェレミー、ちょっといいか」
再び扉がノックされた。
父がワインとグラスを手に入ってくる。
「なに、どうしたんだよ」
「うむ――いやなに、せっかくだし一杯どうかと思ってな」
先ほど弟が言っていたワインだろうか、父ダニドはこちらが返事をするより先にグラスへワインを注ぎ、「そら」と奨めてきた。
やさしさによって満たされたグラスをジェレミーは受け取り、ひとくち含む。ふくいくたる香りがただようワインは、王都で飲んだものに引けを取らない美味であった。
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