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「あぁ、うん――そっか」 「いや、無論嫌ならば断わってくれてもかまわん。それでウチの商売に影響が出るようなことにはならんとこの父が請け負おう。――しかし縁談としてはこれ以上ない相手だとも思う。ウルマン氏はウジェール国王の縁戚だし、なにより商売も手堅い。おまえが嫁ぐのであれば下にも置けないようたっぷりと結納金も持たせてやる――どうだ、うん?」  そう言って息子の機嫌を窺う姿は、ときに血も涙もないと言われるクラヴェル商会の頭目とは思えないほどだった。  そんな父の姿を目にして、ジェレミーは胸が締め付けられる思いがした。申し訳ないという思いと感謝の気持ちが同じくらいの重量を伴ってのしかかってくる。 「もちろん、ウチでこのまま仕事を続けるのだってかまわんぞ。おまえは商売もうまいしな、リュッカも心強かろう。いずれにしろおまえたちふたりがこの先一生路頭に迷わんくらいの蓄えはある。だから――」 「うん、ありがとう、父さん」  父は父なりに考えてくれているのだろう。  いつもそうだった。  オメガの自分がつらい思いをしないように。オメガの兄のせいで弟が苦しい思いをしなくて済むように。いつも父は、母とともに自分たち兄弟のことを思いやってくれていた。 「でも、ごめん。ちょっといまはまだ、先のことまで考えられなくって……」 「ああ、いい、いい。急がなくてもいい。おまえの人生だ、ゆっくり考えて結論を出せ」  父はそう言って愛する息子の肩を叩き、ワインのボトルを置いて出ていった。  ジェレミーはグラスに残っていたワインをひとくち含む。胃の腑が焼けるように熱くなる。  かまわず続けて飲み干すと、無言で机の上の資料をぐしゃりと握りつぶした。

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