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125.
「……ジェレミー?」
ふと、闇のなかでひそやかな声が聴こえた。
それはとても小さな声で、背後にいる門番の耳には届かなかったようだった。
けれど、ジェレミーにはたしかに聴こえた。
どくんと心臓が音を立て、額に汗が滲む。もう一度「カシウス殿下、」と心のなかで呼びかけると、人影はようやくこちらへ顔を向けてくれた。
「おい、早くしろ」
とそのとき、門番から声がかかった。
一度そちらへ振り返り、「はい、すみません」と答える。
声でわかってくれたのか、カシウスが立ち上がった。
それ以上は無理だった。ここで自分がカシウスの覚えのある人物だと露見してしまったら、怪しまれる。せっかくの救出計画も水泡に帰すおそれがあった。
ジェレミーはカシウスに視線を注いだまま、一歩あとずさる。ほんのわずかだが、こちらのほうが灯りに近い。
そうしてジェレミーはひとこと、声に出さず呟いた。
『明日、日の入りの時刻』
ジェレミーの唇の動きにカシウスもかすかな頷きで応えてくれた。
伝わった。
それだけで充分だった。
名残惜しい気持ちを振り切り、ジェレミーはカシウスに背を向ける。
部屋から出ると再び門番は施錠した。そのうしろでジェレミーはじっとカシウスを見つめ続けた。促されて階段へと向かうときにもずっと視線は逸らさなかった。
もうあと数歩で階段のまえというところまで来たとき、カシウスの姿が見えた。薄暗い地下の鉄柵越し、あのうつくしく澄んだプラム色の瞳がきらめく。
その眼差しはしかとジェレミーへと注がれていた。
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