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127.

 そうやってまんじりともせず迎えた翌日。  日の入りの時刻、一日の終わりを告げる鐘が鳴る。  ジェレミーは手筈どおりに城内の複数の場所で小火(ぼや)騒ぎを起こした。  続けて厩舎に向かい、馬房の柵を開け放つ。 「ごめんな……!」  とひとこと詫びて、金だらいに柄杓を打ち付けた。  大きな音に驚いた馬たちは一斉に暴れ出し、ほうぼうへと駆け出してゆく。  小火騒ぎと馬の暴走で、城内はいくらもしないうちに大混乱に陥った。同時に、近くで待機しているはずのヴィドールたちが小火の煙をのろしがわりとしてこちらへと向かっていることだろう。  ニコラウス配下の騎士たちが右往左往するなかを、ジェレミーは駆けた。昨夜訪れた地下室へ向かって走りつつ、見張りの騎士らへ大声で呼ばわる。 「大変です! いま城門が外から突破されたそうで、ドレンヌ公爵閣下は領地へお戻りになるとのこと、つきましては人質を連れてこいとの仰せです!」  突然のことに見張りの騎士らは顔を見合わせ戸惑う様子を見せた。  が、その間にも煙と怒声と馬のいななきがあちこちから上がっており、一刻の猶予もないと判断したのだろう。  頷き合った騎士たちのうちのひとりが、入口の扉を開けて地下へと降りてゆく。  ジェレミーはさも当然のような顔をしてそのあとを追いかけた。見張りには昨夜と異なる騎士がついていたが、剣も弓も持たないジェレミーのことはただの使用人とでも思ったか、気にする者はいなかった。

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