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129.
「言っておくが暴れても無駄だ。城内はすべてニコラウス閣下の――ぉぉおおおぁぁああぁ!?」
カシウスに縛をかけようとしていた門番の悲鳴は、間抜けに途切れた。
門番の胸倉を掴むや、カシウスが目にも鮮やかな手付きで彼の身体を通路の奥へと思いきりぶん投げたのだ。
「なっ、なっ……なん――ッ」
倒れて動かなくなった門番を目にして、もうひとりの騎士があたふたと剣を抜きかける。
だが、カシウスのほうが速かった。
わずか一歩で距離を詰めて騎士の片腕を捻り上げると、「ひいぃっ」と醜い悲鳴を上げる彼の身体を床に引き倒して喉元を締め上げる。あわれ、見張りの騎士は白目を剥いて気絶した。
「カシウス、殿下――」
たった一瞬でふたりの騎士を倒したカシウスの勇姿に、ジェレミーは茫然と呟く。
その声に彼の視線がこちらを向いた。
――ああ、やっぱり、この人だ。
――この人が、呼んでくれていたのだ。
「ジェレミー」
恋い焦がれた声が自分を呼んだ。
すっと片手が差し出される。
その手を取っていいものかためらい、もう一度彼を見上げた。
少し痩せたのだろう、頬がややこけている。小さな燭台の灯りだけでは顔色まではわからない。けれど怪我もしていないようで、凛として立つ姿に心配は無用のようであった。
その彼がきゅっと眉を寄せる。苦悩の表情。
もう一度、確かめるようにして名を呼ばれ、たまらずジェレミーはカシウスの胸に飛び込んだ。
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