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「……くっ、ぅ――!」  痛みに顔を歪ませてうめく。  誰もが動けず、あたりに静寂が満ちた。  カシウスも、剣を突き立てたニコラウスも、呼吸を忘れたかのようにして互いの眼前にその身を(なげう)ったジェレミーを見つめていた。  ほんのわずかな間を置いて、その静寂に、さりさりと玲瓏たる音が鳴る。  ジェレミーがおそるおそる目を遣った先――そこには腹を破って流れ出た鮮血のかわりに、金色の輝きが淡い光を放っていた。 「な、に……!?」  ニコラウスの咽喉からひゅうっと息が漏れる。  金貨だ。  ジェレミーが肌身離さず懐に仕舞っていた金貨が盾となり、ニコラウスの剣に突き刺されて床にこぼれ落ちている。  カシウスはその機を逃さなかった。  渾身の力を振り絞り、ニコラウスへと剣を突き立てる。  不意を突かれたニコラウスは咄嗟に身を引こうとしたものの、カシウスの剣からは逃れられなかった。 「詰めが甘いな、ニコラウス――!」  にやりとくちびるの端をつり上げ、カシウスが不敵に笑う。  ニコラウスはぐらりと身体を傾かせ、そのままゆっくりと床に倒れていった。  ジェレミーの腹からこぼれ出た、金貨の海のなかへと。

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