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片やジェレミーはといえば、爵位授与にまつわる準備のかたわら、自身の独立に向けて奔走していた。
今回のことをきっかけにして、ジェレミーは自ら商売を起ち上げることに決めた。
父ダニドに「この父からおまえに教えられることはもうなにもない」と言われたときはうれしさ半分、さびしくも感じられた。けれど家を出て自分自身の力を試すことに迷いやためらいはなかった。
正直、カシウスと番になるのならばもう一生働かないどころか遊んで暮らせるわけだが、それではおもしろくない。
しばらくは王城内の一室に間借りして、準備を進めた。ひとりでは賄いきれないところは父や弟にも手伝ってもらい、あらたに助手として厨房係であったあのジャンを抜擢した。
「いやぁお目が高いことで、ええ。このアタシがきたからには旦那にゃあ楽させてやりますぜ」
にひひ、と笑ってそう言ったジャンの言葉に嘘はなく、下級貴族出だけに彼は読み書きに留まらずかなり難しい計算もやってのけたのだった。
あらたなる門出に向けて、ジェレミーもカシウスも多忙な日々を送っていた。
それぞれのために、そしてお互いのためにいまは少しだけ我慢して――と。
そうやって満足に語らう時間もとれず、ようやくふたりがゆっくりと過ごせる日が訪れたのは、ジェレミーの叙勲も終わり、半月以上も経ってからのことだった。
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