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ノイズ8※(雪広)
「は、は、ああ…っっ、ん、ん……」
理央の素肌に即発されたのか、いつもより激しく突いてしまう。膝の上に抱き上げて尻を掴み、下から上に腰を振る。
それだけでは足りず、ベッドに押し倒し、上から覆い被さりまた激しく腰を振る。
キスも、余計な愛撫もしない。感情を伴わない、処理としてのセックスだ。
相手が女でも男でも、キスをした途端に態度が変わる。急に丁寧になり、感情を求められる。
それが、雪広は何より嫌いだった。
恋愛は不要だ。
時間も、思考も、浪費する。快楽だけが目的なら、過不足のない関係で十分だ。
「は……っっ、あっ、ん、ん、あっ」
いつもより激しく抱いているから、理央が必死に声を殺しているのがわかる。
そろそろ達きそうだ…
理央には雪広の動きがわかっているようだった。背中をギュッと抱きしめられる。理央も達きそうになっているのがわかる。
「……くっ、、…う…っ、っ」
「…はぁ、ぁぁっ、ん、ああっっ」
ドクンとゴムの中に大量に射精をした。同時に理央も股間を押さえているから、射精しているようであった。
ぐりっとペニスを引き抜き、慣れた感じでベッド脇のボックスからティッシュを引き抜く。無言で2、3枚を理央に渡した後、ゴムを外しゴミ箱に捨てる。
必要な後始末を淡々と済ませ、雪広はそのままベッドに身を投げた。
仰向けになり、天井を見上げる。
低い天井には、小さな照明の跡が残り、白い塗装は何度か塗り直されたようだった。
生活のための部屋だ。
こんなことは、今までなかった。
いつもなら、すぐに身支度を整えて帰る。
ベッドに横になることも、こうして時間をやり過ごすこともない。
だが今日は、素肌のまま抱き合っていた。
その分だけ、いつもより無防備になっている。雪広は、それを他人事のように自覚していた。
「……ゆ、雪広さん……」
隣から、控えめな声で名前を呼ばれる。理央も同じように、ごろんと横になっている。
視線を向けると、理央は小さく笑っていた。唇が、わずかに切れているように見える。
「……大丈夫か。唇が」
「あっ……ふふ……ちょっと、我慢しちゃったかも」
声を抑えるために、噛んでいたのだろう。
咄嗟に、雪広はその唇に指を伸ばした。
理央の身体が、びくりと揺れる。
その反応に、雪広は、はっとする。
___らしくない。そう思う。
人の体温を感じていたせいだろうか。
それとも、名前を呼ばれたせいか。
理央の唇が、妙に気になっている。雪広は理由を考えるのをやめ、そっと指を引いた。
「……じゃあ、そろそろ行くよ」
らしくないことを、随分した。だから今日は、パンも食べず、会話も広げずに帰ろうと思う。
身支度を簡単に済ませると、理央は、ぱたぱたとキッチンへ向かった。
「今日はね、ブールを焼きました。雪広さん……意外と、ブールが一番好きでしょ。分かるんだ」
少しだけ饒舌だな、と雪広は思う。
「それと、これも。よかったら、食べてみて」
紙袋には、いくつものパンが詰められていた。
「ありがとう。じゃあ、今度……ブールの感想を伝えればいいかな」
今日はここでパンを食べていない。
次に会ったとき、伝えればいい。
「うん……そうだね。ありがとう、雪広さん」
玄関まで見送った理央は、にこにこと笑っている。その口元に、思わず視線が留まった。
扉が閉まる、その直前。
雪広は一歩だけ近づき、短く言った。
「……大事にしてくれ」
言葉と一緒に、唇に触れる。理央は何も言わず、ただ立ち尽くしていた。
また、らしくないことを言った。
雪広はそれ以上何もせず、背を向ける。
そのまま、歩き出した。
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