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オーブン8※(理央)
部屋の空気が、少しずつ変わっていくのが分かった。温度が上がったというより、柔らかく満ちていく感じだ。
パンを焼く前、オーブンの前に立ったときの、あの空気に似ている。
雪広の手が、丁寧に、ひとつずつ服に触れる。確かめるように、外していく。
理央はされるがまま、指先の動きを追っていた。気づけば、互いに素肌になり、自然と腕の中に収まっている。
「……君の肌は、冷たいな」
低い声でそう言って、雪広は額に口づけた。それから、頬、首筋、肩へと、ゆっくりと唇を移していく。
触れられるたび、熱が伝わる。冷たいはずの身体が、少しずつ温められていく。
お腹に、背中に、足先に。
触れられていない場所を探す方が難しいくらい、雪広の唇が、静かに、確かに、理央を包んでいった。
抱き寄せられ、思わず理央も腕を回す。
返していいのか迷う前に、また唇が重なり、考える余地を奪われる。
好きな人。
ずっと、会いたかった人。
胸の奥が熱くなって、息が少しだけ乱れる。嬉しくて、このまま溶けてしまいそうだった。
身体に触れられながら、理央は思う。あの頃のように、ただ繋がるだけじゃない。
その気持ちが伝わったのか、雪広の動きが、ふと止まる。
「……もう、酷い抱き方はしない」
理央の髪に額を寄せ、静かに続ける。
「君を知ってからじゃないと、先には進めない」
傷つけられたことなんて、ない。
そう思うのに、その言葉が、どうしようもなく嬉しかった。
それでも、身体は正直で、触れられるたびに、勝手に熱を持ってしまう。
雪広の息も、すぐそばで少しだけ乱れているのが分かる。
「だから……今日は、このまま抱きしめるだけだ。許してくれ」
耳元で、確かめるように囁かれる。
その言葉に、理央は一瞬だけ息を詰めた。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
「……このままは……」
声は小さくなってしまったけれど、首を横に振る。雪広をぎゅっと抱きしめた。
「……いやです」
ほんの少し、間を置いてから。
「雪広さん……」
名前を呼ぶ声が、かすれる。
「ちゃんと……触れてほしい」
視線を合わせられなくて、俯いたまま続けた。
「……ずっと会えなかったから……」
言葉を探すように、唇を噛んで。
「……ちゃんと、抱いてほしいです」
控えめで、それでも必死な声音だった。
雪広が、静かに息を吸う。
「……理央……」
掠れた声が、耳元に落ちた。
雪広の腕が、さらに深く回される。壊れ物を扱うように、慎重で、それでいて離さない力だった。
唇を、食べられてしまいそうにキスをされる。思わず息を詰める。
その後、雪広の唇は、ゆっくりと下へと移っていく。お腹に触れ、そこからさらに下へ……確かめるように。
「……は、……っ…はっ…ぁっ…」
キスを重ねられるたび、身体が小さく跳ねてしまい、堪えきれずに息が零れる。
心地よさが、静かに、けれど確かに、広がっていく。気持ちがいい…
音を立てるほど近くで、けれど乱暴ではなく、そっと、なぞるように身体にキスを落とされる。
触れられているのに、触れすぎない。
その距離が、かえって胸を熱くさせた。
「……あっ…雪…広さん……」
声が上擦ってしまう。自分の声を拾うのも恥ずかしい。違う人の声のようだ。
「もっと、声を…聞かせてくれ…」
「だ…め…です…」
恥ずかしくて顔を背けてしまう。
「ダメじゃない…君の声が聞きたい。君を知りたいんだ…」
首筋に顔を埋められ、肩に、鎖骨に、ゆっくりと唇が落ちていき、またキスをされる。
触れては離れ、また触れる。繰り返される愛撫に意識が途切れそうになる。
「ここは……小さくて、冷たいな」
そう言って、指先で温めるように胸を撫でる。乳首を指で撫でられるたび、理央の身体が小さくひくんと揺れる。
「……ゆ、雪広さん……」
呼び止める声は、思ったよりも弱く、途切れがちだった。それでも、雪広はすぐに気づいて、動きを止める。
「……どうした」
理央は、言葉を探すように小さく息を吸う。
「……もう……いっぱい…です…」
自分の反応に戸惑って、視線を逸らす。
触れられるたび、身体が勝手に応えてしまうのが、恥ずかしかった。
ふるふると揺れるペニスから雫が垂れている。気持ちがよくてどうにかなりそうだった。
「……理央。少しでも嫌だったら、ちゃんと言ってくれ」
こくんと頷くと、雪広の指が後ろに触れた。迷いのない動きだった。
「んっ、ふぅ…っ、あ、あ、」
いつのまにか、声が上がっている。雪広の指がためらいなく奥まで入ってくる。
好きな人の指で弄られていると思うと、興奮してしまう。
欲求なんて薄いはずだったのに、好きな人を前にすると、どうしてこんなにも欲張りになってしまうのだろう。
「君の声が聞けるのは嬉しい…」
そう呟き、奥までぐりっと指を回される。
「……はっ…雪…広さん……」
雪広の…指の先が、気持ちいい。刺激され、理央は、とうとう堪えきれずに、とぷんと精子をこぼれ落としてしまった。
「はぁ、はぁ…ああ……ぁ…」
指を引き抜かれ、代わりに熱く滾るものがそこに当てられる。
「理央…いいか…」
ひくっと息を飲む。そして頷いた。
「君を……ちゃんと、気持ちよくさせたい」
ずしっと重さのある雪広のペニスで、理央の後ろは広げられる。
「ああ…あっ、あっ、はああぁ…っっ、」
少しずつ、ゆっくり、腰を揺らしながら奥まで進んでいく。身体中、キスをされ、愛撫をされていた。だから、大きなペニスも、痛みもなく受け入れていった。
みっちりと隙間なく埋め込まれ、二人はぴったりと身体を重ねる。
熱い雪広のペニスが理央の中で脈を打っている。ドクドクと波打つ動きに、気持ちがよくて、腰が動いてしまう。
「……動いて、いいか」
答えの代わりに、雪広を抱きしめた。
ゆっくりと腰を前後に動き始める。
「……は、……っ…はっ…ぁっ…」
自分の高い声が耳に響く。理央は思わず唇をぎゅっと噛む。
「……噛まないでくれ」
そう囁いて、指先がそっと唇に触れた。
撫でるように、確かめるように。
「声が……恥ずかしい……」
「恥ずかしくない」
雪広は、迷いなくそう言ってから、少しだけ声を落とす。
「俺は、君の声が好きだ。聞こえるのが、嬉しい」
その言葉が、胸の奥に落ちた瞬間だった。
理央は、息を詰めるように喉を鳴らし、雪広にしがみついた。
「……も……っ、ああっ、はああっっ」
声にならない音が、唇の隙間からこぼれる。抑えていたものが、堪えきれずに溢れそうで、視界が熱を帯びる。
その次の瞬間、逃がさないとでも言うように、体重が重なる。唇も、静かに、奪われた。
ゆっくりと、確実に、腰の動きを強めていく。理央は必死で雪広にしがみつく。
「理央……このまま……いいか…」
「いい…っ、雪広…さん…っ、ああ、」
ぎゅっと抱きしめられ、とぷんと射精した。雪広も遅れて、理央の中で達している。どくんどくんと波打つ雪広を奥で感じている。
「……理央」
会いたくて、ずっと胸にしまっていた人。
その好きな人が、名前を呼んで、キスをしてくれる。嬉しくて、息が詰まりそうで、泣きそうだった。
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