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オーブン9※(理央)
「好きだ……理央」
繰り返されるたび、胸の奥が熱くなる。
同じように言いたいのに、唇を奪われてしまって、言葉にならない。漏れるのは、思ってもいない高さの声だけだった。
「は、はぁ、ああ、っっ、んんっ…」
言葉では足りない二年分を、抱き合うことで埋めるように、二人は身体を離さなかった。
優しいのに、逃げられない。時に、腰を掴み理央の奥まで力強く叩きつけられる。
そのたびに、また声を上げてしまう。
「おいで…支えるから」
繋がったまま、抱きかかえられ向き合う。ゆっくりと、下から上に雪広に突き上げられる。その動きが少しずつ、はやくなる。
「も……だ、め…気持ち…い」
素直に口にすると、雪広は嬉しそうにするのを知った。気持ちがよくて、また達ってしまいそう。そう小声で伝える。
「ああ…君が、気持ちよくなってくれれば」
そう言って雪広は腰の動きを激しくする。
硬く大きなもので、下から突き上げられるので、振り落とされそうだ。
「や、や、っ…」
「大丈夫だ…君に酷くはしない」
背中を支えられ、がっしりと腰を掴まれている。首筋にキスをされながら、奥まで貫かれると、またすぐに射精してしまった。
少し遅れてから雪広も、理央の中で達する。奥の壁に飛沫がかかるのがわかった。
静かに、優しく、ベッドへと横にされる。
「……」
小さく音を立てて、唇が触れる。雪広の唇が重なるたび、意識が溶けていく。抱き寄せられる腕の力に、胸の奥が甘く締めつけられた。
「……大丈夫か、理央」
低く、心配する声。
「……もう……力、入らないです」
思ったより弱い声になってしまう。
恥ずかしくて、顔を伏せた。
何度も、身体を重ねた。何度も、求められ、そのたびに名前を呼ばれた。
甘すぎる時間に、完全に身を任せてしまったのだと、ようやく気づく。雪広の触れ方は、どこまでも優しくて、だけど、逃げ道を残さなかった。
理央はベッドに横になり、くったりと力を抜いていた。長い時間、繋がっていた余韻がまだ身体に残っていて、指先ひとつ動かすのも億劫だ。
その隣で、雪広は片腕を伸ばし、理央を逃がさないように抱き寄せている。指は背中に回されたまま、緩む気配はない。
「……君を、ここに閉じ込めてしまいたい」
低く、独り言のような声だった。
「そんな考えをしてしまう俺を……軽蔑するか?」
広いベッドに、二人分の体温が溶け合っている。理央の頬に触れる雪広の胸は、思ったよりも熱くて、安定していた。
「閉じ込めて……?」
理央は一瞬きょとんとしてから、視線を上げる。
「こんな……ホテルみたいなところに?」
天井も、シーツも、すべてが整いすぎている。閉じ込める、という言葉とはあまりにも不釣り合いで、思わず小さく笑ってしまった。
「それ、なんだか……優雅すぎる」
くすっと漏れた笑いに、雪広は否定しなかった。ただ、理央の腰に回した腕に、少しだけ力を込める。
「何年も探して……やっと、会えた。そして、君にまた触れられた」
言葉を選ぶようにして続ける。
「それでも……足りないと思ってしまう」
額を寄せ、理央の髪に鼻先を埋める。
「だから、このまま……誰にも渡さず、ここに置いておきたい」
冗談でも、命令でもない。欲をそのまま言葉にしただけの声だった。
理央は、胸の奥がきゅっとなるのを感じながら、そっと雪広を抱きしめる。
「……閉じ込められるなら」
小さく、控えめに。
「ちゃんと……一緒に、いてくれますか」
雪広の呼吸が、一瞬だけ乱れた。
「当然だ」
即答だった。
「離す気はない。君が、嫌がらない限り」
そう言って、額にキスを落とす。守るように抱き寄せる腕は、限りなく優しい。
理央はその腕の中で、また少し力を抜いた。包まれて、息ができないほどなのに、不思議と苦しくない。
「……少し、眠るか」
低く、落ち着いた声が耳元に落ちた。
眠るなんて、もったいない。
そう思ったのに、言葉にはならなかった。
雪広の腕の中は、驚くほどあたたかい。
さっきまで高ぶっていた身体が、ゆっくりとほどけていくのがわかる。
求められすぎたせいか、力が抜けて、まぶたが重い。
好きな人が、ここにいる。
こうして、抱きしめてくれている。
でも。
寝てしまったら。
目を覚ましたら、全部夢だったら。そう考えた途端、胸の奥がきゅっと縮む。
「……寝たくない、です」
声は小さく、頼りなかった。
けれど、もう抗えないほど、意識はゆっくり遠のいていく。
「寝る……なんて……もったい……ない」
そう呟いた自分の声さえ、少し遠くで聞こえた。
雪広はその様子を見て、ほんのわずかに口元を緩める。
「少しでいい」
低く、やさしい声。
「ここにいる。起きたら……続きを話そう」
「起きたら……? 続き……」
理央が小さく繰り返すと、雪広の腕が、ほんの少しだけ強くなる。
「君と、そんな約束をしたい」
言葉に、胸の奥がじんわり温かくなった。
約束が、できる。
次が、ある。と教えてくれる。
雪広の指が、ゆっくりと髪を撫でる。
抱き寄せる腕は確かで、逃げ場を塞ぐのではなく、静かに居場所を作るようだった。
「君の寝顔が見られるのは…」
囁くような声が心地いい。近くで、雪広の心臓の音が、とくん、と響く。
「……俺にとっては、十分すぎるほど、幸せだ」
その言葉に、胸に残っていたわずかな不安が、するりとほどけた。
理央は、小さく息を吐き、雪広の胸に顔を埋める。
目を覚ましても、きっと、そばにいる。
そう信じたまま、
理央は、そのまま静かに眠りに落ちた。
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