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第19話

 沖からもらった三ヶ月。その間の、買収阻止の売り上げアップ作戦を、たけだ屋の女将、英恵も交えてふく里に集まって話し合った。  当然、瑠生も席に立ち会ったが、瑠生は参加ではなく特訓の方で、だった。  初めて半玉になったときは、まだ中学生で声変わりもしていなかった。だから声でバレる心配はあまりしていなかった。  けれど今回は違う。もう、高二だし、背も昔よりは伸びている。声も、少し高めだけど一応、男子高校生だ。会話が長引けばバレる。 「なあ、本当にこれで女っぽくなるのか? 梅ちえね——」  文句を言ったわけではないのに、梅ちえにピコピコハンマーで頭を叩かれた。 「『なるのか』じゃなく、なるんですか、だよ」  だって──と、言いかけたが止めた。また、嬉しそうにおもちゃのハンマーで叩いてくるのがわかっているからだ。 「で、でも、ボイトレの動画見ただけで、本当にうまく声を出せるのか、じゃなくって、出せるんでしょうか」  自分で言ってて吐きそうになる。よくテレビで見る、オネエに思えてきた。 「出せます。とりあえず、メラニー法と囁き戦法よ。地声のまま高い声を出す練習だから。ほら、のどを細めるようにして、のど仏を使わずに声を出してみ」  梅ちえに言われるがまま、瑠生は口を閉じた状態で「あっ、あっ」と発音をし、喘ぐような声を出した。  ……自分でも何をしてるのかわからなくなってきた。鏡の前の俺、完全に変態だ。  鬼コーチの指示で次は長めの発音をしていると、桔梗の部屋のふすまが開いた。  中で会議をしていたフルメンバーが、瑠生を見て目を丸くしている。 「誰がよがり声を上げているのかと思ったら、瑠生だったのねぇ。エッチな子」  うふふと、里菊が笑うと、椿も英恵も、桔梗までもが笑っている。 「よ、よがり声なんて言ってないっ。俺は、声の練習を──痛って」  待ってましたと言わんばかり、梅ちえからハンマーで襲撃された。 「半玉は『俺』何て言わないでしょっ。来週にはお座敷に上がるんだから、今が正念場だよ。ほら、続きをやるから」  はいはいと返事したら、またピコっと頭で音を奏る羽目になった。 「真剣にやりな。私はスパルタなんだ。ほら、次はささやき戦法だよ。ナイショ話しするみたいに声を出して。あー、違う違う。吐息まじりの声だって」 「梅ちえ姐さん、厳しい」 「あったりまえでしょ。あんたの半玉に命運がかかってるんだ。それに、やるからには相手を喜ばせる。嘘でもね。ほら、続き、続き」  ……ああ、何でこんなことになったんだ──って、俺のせいか。  でも、姐さんの言ってることは正しい。  こっちはフリでも、沖からすれば半玉からの接客を楽しみにしているお客だ。  楽しいお座敷だったと思ってもらいたい。  瑠生はグッとこぶしを作って気合いを入れ直す。でも、やっぱりこの特訓は辛い。  俺もあっちの輪に入りたかったなぁ。  指を咥えて隣を見ていると、何やら難しい言葉が飛び交っている。  坪月商ってなんだ? 店の売上を、広さ(坪数)で割った数字? つまり『店の効率』ってことか。  梅ちえが休憩している隙に、桔梗の部屋を覗き込んだ。  英恵が売り上げを紙に書いて、計算している。  現在が平均、三十万くらいで、売り上げはそう悪くはないと言っている。  なんだ、たけだ屋が閑古鳥と思われて買収されるんじゃない──いや、違う。  売上がいいってことは、しっかりとした顧客がついているからだ。それはふく里にも言えることだ。  料亭と置屋の双方が持ちつ持たれつで、互いに協力し合って花柳界を盛り上げている。だからこそ、置屋を繁盛させた実績のあるたけだ屋が欲しいのだ。  ふく里はたけだ屋との絆があるからこそ、芸事を目いっぱい発揮できる。  桔梗も、英恵も、そしてふく里の芸者みんなが一丸となって、向島の花柳界を守ろうとしている。だったら、自分ができることは、完璧な半玉を演じることだ。  頑張ろう。とにかく、女性らしく振る舞えるよう、頑張ろう。そうだ、今度、師匠に女性らしい仕草を教えてもらおう。  彼女が見せてくれた、これまでの振る舞いや仕草を頭に浮かべた。  数分前までの不甲斐ない自分を反省すると、瑠生はメラメラとやる気を燃やしていた。

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