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尚孝の場合 - 3

無我夢中に貪った。 その自覚は、ある。 オレの身体の中にため込んだ熱を、何度目かに解き放つ、その瞬間。 レースのカーテンだけひかれた窓。 その向こうに見えたのは、夜の闇だった。 部屋に入ったときにはまだ夕方の気配が残っていたのに。 「…っは……!」 和実さんがひくりと細い頤を上げて、微かな反応を返す。 かろうじてというようにすがりついていた手が、ぱたりとシーツの上に落ちた。 「……大丈夫?」 眉間にしわが寄ったまま、瞼は閉じられている。 「ね、和実さん? 息してる?」 身体はつながったまま。 まだ離れたくないから。 自分の頬を口元に寄せれば、かすかに感じる呼気。 汗で額に張り付いた前髪をかき上げても、頬を軽くたたいても反応はない。 また、やってしまった。 『いい加減、同じだけの体力がないって、覚えてくれよ』 何度もそう言って怒られたのに、こうやって身体を重ねれば、加減なんてできるわけがない。 張りつめたような若い身体が好きな奴もいるだろうけれど、オレは違う。 歳をとった分まろやかになって、跳ね返すことなくしっとりと吸い付くような、柔らかな感触が好きだ。 受け入れられてるって気がするから。 いつもはガラスの向こうに隠されている瞳が、感じすぎて潤むのを見るのが好きだ。 理路整然と言葉の出るその口から、聞き取れなくなるほどの乱れたセリフが出るのが好きだ。 耳に優しい声音が、切羽詰ってくるのがたまらない。 およそ人を傷つけるなんてことをしたことがないようなのに、辛抱たまらない感じでオレの背に爪を立てるのが、いい。 だから。 とにかくこの人のすべてが、オレを煽りまくってくれるわけだ。 まだ、足りない。 もっと抱きたい。 けれど、意識のない相手を好き勝手するなんていうのも、楽しくはない。 このまま揺さぶり続ければ、目が覚めるかな、なんて思いはするけれど。 そこまでひどいことはしたくない。 身体も好きだけど、身体だけが好きな訳じゃないんだ。 ため息をついて、中に埋め込んだままだったモノを引きずり出す。 微かに身じろぎしただけで、その瞼は上がらない。 ああ、やべえ。 あとで愛想つかされんじゃないかってくらい怒られるんだろうけど、こんなになるまでオレを受け入れてくれてたんだって、嬉しくなる。 半身を起こして、髪をなでる。 整髪料で整えられていることが多い髪。 ホントは少してっぺんを気にし始めてるのだって知ってる。 前髪をつまんで、口づけた。 引っ張られていても、反応なし。 「ちょっと待ってて。すぐ戻るから」 抱え上げて風呂に連れて行くことも一瞬考えないではなかったけど、そのまままた催さない自信はない。 それに、無理させた自覚はあるから、休ませてあげたい。 蒸しタオルで身体を拭うだけでも、許されるかな。 額にキスをして、ベッドを抜け出した。

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