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第二章 揃えない選択 2-1 視線と沈黙

翌日ではない。 だが、 前と同じとも言えない。 庭に入る前に、 一拍だけ間がある。 足を止めたわけではない。 止める理由が、見つからなかった。 神木の影は、 昨日より少し短い。 角度の問題だ。 そう扱えば、問題は起きない。 水鉢は、置かれていない。 まだだ。 置いていないだけで、 忘れたわけではない。 私は白衣の袖を整える。 整えたあと、 指先が離れるまでに、 わずかな遅れが生じる。 遅れは、測らない。 石灯籠の影に、弦がいる。 位置は、 決めていない。 それでも、 決まってしまったように見える。 私は何も言わない。 言わないことが、 昨日から続いている。 黒い布を広げる。 端は、土に触れない。 触れないが、 中央に寄りすぎている。 短刀は、 まだ鞘の中だ。 出す予定はない。 予定がないことを、 予定として扱う。 紙束を取る。 朱の印に、 一瞬だけ視線が留まる。 欠けはない。 欠けがないことを、 確かめすぎない。 弦が、半歩下がる。 下がった距離は、 昨日と同じではない。 同じでないことを、 指摘しない。 準備は、 始まっている。 だが、 始めた覚えはない。 均衡は、 まだ保たれている。 保たれているからこそ、 何も直されない。 私は、水鉢を置かない。 弦も、何も言わない。 揃えなかった選択が、 選択として数えられないまま、 朝が進む。

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