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第2話

 魔王が出現したというのは、俺が生まれるずっと前から話が出ていた。魔族領に、何百年かに一度現れる。魔王のする事はその世代の魔王にもよるが、大体は戦争をふっかけてくる。ちなみに、今代の魔王についての情報は俺がいる国にはほぼ入って来なかった。あったとしても、もしかしたら近隣と小競り合いが起きるかも知れないので注意されたし。位だった。  話が逸れた。  魔族領の位置は、俺たちの国を中心にして見るとほぼ真上。徒歩と馬車で5年ほどは掛かる。移動系のスキルがあれば、もっと短縮するだろうが。  その為、学園では年に一度、適正検査がある。大体は5歳頃にやる魔力職業検査から、一生変わらないが極稀に勇者や、賢者など特殊な職業に変化する事がある。それを検査する為、国民は成人である18歳まで年に一度協会か、冒険者ギルドや商業ギルドに行き検査する義務がある。  「俺が、勇者?………そんなまさか。」  俺がまだ、15の時の検査だった。  信じられなくて、何度も確認してしまった。教師達がバタバタと走り回り、その内協会から人がやって来た。  あれよあれよと教会に連れたこられ、再検査。どうやら検査精度は、教会が一番良いらしい。なので、教会以外で特殊スキル等が現れた場合は教会で再検査をする事になっているとか。  「……アレキサンドライト様、貴方は勇者で間違いありません。」  沈黙が流れた。  「直ちに王城へと、お向かい下さい。私達も同行致します。」  そう言った司祭様の後ろには、いつの間に呼んだのか教会所属の騎士数名が物々しい顔つきで静かに立って俺を見下ろしていた。  あからさまに舐められている。そう感じた。  どうせ否やはなかろうて。そう思い粛々と従い、王城へ向かった。  「君が今代の勇者か。」  謁見室に入り、礼をした。(俺だってそれなりの身分だから、礼儀は分かる。)顔を伏せたまま、国王と話をする。  「名は?」  「シュトレーゼ伯爵家次男のアレキサンドライトと申します。」  「シュトレーゼ家……あぁ、国境近くの果物の産地か。私達の食卓にも、良く出てくるぞ。甘く、芳醇な果物が多いな。」  「南に近いためか、育ちやすい様です。」  「そうかそうか。」  雰囲気は良いが、横目で見える要職達の顔つきは暗い。これは、旅立ちの条件が悪いのだろうか。それとも、何か別の問題が重なったのだろうか。  「さて、本題だが。君は魔王の事を知っているかね?」  「基本的な事は、学園で学びました。」  「そうかそうか。」  いかにも好々爺な顔で頷く国王に、やはり周りは微妙な顔。  「騎士科を受けていると、言っていたな?」  「はい。」  「では、今からそなたに装備および軍資金を贈る。すぐに旅立ちの準備を整えて貰う。」  「は、御意に。」  俺に否やはない。  微妙な顔は、この事か?と思っていたら、落としていた視線の先に物資がどんどん揃えられていく。  上の方から再び声が聞こえてきた。  「魔王討伐の暁の褒美だが。」  「は。」  「我が娘ら3人の内、一人と結婚をさせてやろう。」  忘れていた。正直に言おう。本当にこの時まで、王女達の事は忘れていた。  この国王の言う3人の娘は、この国で嫌な意味で有名である。勇者の生贄。そう呼ばれる、悲劇の3人の王女。  魔王が存在する。それは俺が生まれる前から存在していたから、みんな知っている真実でもある。  その中この国王は、即位の際、世界に宣言しやがった。  『余が王である内に、もし勇者が現れたのならば。余の娘の内一人と結婚する権利を与える事を宣言しよう。』  その時の末っ子王女はまだ産まれたて。だが、問題は第一王女。この時13歳。俺が貴族学園の騎士科に在籍しているという事は、今は余裕で20代。いわゆる、行き遅れと言われる年齢だ。  まぁ、結婚に年齢は関係ないが、それは相思相愛の場合に限るだろう。  周囲の嫌な顔は、この事だったのか。  正直嫌だ。  別に俺に恋人がいるとかではないが、単純にもう諦めれば良いのに。と思っていた。  なぜなら、第一王女には恋人がいるという事が周知の事実であるからだ。俺だって知っている。という事は、父親である国王も知っている。というか知らなければおかしい。  町中を、城内にある庭を、堂々と二人連れ立って歩いているのを見ていたからだ。二人が目を合わせ、微笑みあっているのを見ていたからだ。二人が領地経営の勉強を一緒にしているのを見ていたからだ。  勇者の妻になるかもしれない。王女の恋人はそれでも傍にいる。  なんで知ってるかって?恋人同士の男の方は、俺の兄だからだ。  第一王女の夫になる。それは兄に殺されるという事。  「国王様、一つよろしいでしょうか。」  ならば、俺がやる事は一つだった。  「国王様もご存じの通り、我が長兄と第一王女様は相思相愛のご関係。私が旅立てば、生きて戻れるかは分かりません。どうか、褒美を頂けると言うのならばどうか---」  ーーー我が兄との結婚をお許し下さい。  室内が静まり返る。  周囲の緊張が高まる。  「何故だ?」  「恐れながら、王女様方が町中で何と呼ばれているかご存じでしょう。」  国王が黙ってしまった。  「行き遅れの王女。輝きを失った宝石。いつまでこんな風に呼ばせるおつもりでしょうか?」  どうせ生きて帰れるか分からない。だったら、俺は家族の幸せを願うだけ。  「我が長兄は、第一王女様と婚姻が叶わないのならば次男に家督を譲り出家する。とまで父上に宣言をしております。国王様、現実を見てください。私が勇者であるならば、それは生きて戻る可能性がとても低いという事。たとえ生きて戻れたとしても、五体満足である保証はありません。ならば、今褒美を頂きたい。我が長兄と第1王女の婚姻を何卒。」  ぱちぱち。と拍手が聞こえる。その音が室内を埋め尽くす。まぁ、そうだよな。臣下とはいえ、こんな事進言なんてしたら物理で首が飛んでもおかしくない。  俺は勇者と認められたから、こんな事が言えた。  しばし拍手の音の波が起こり、おさまっていく。  皆思う所があったのだろう。  ずずっ。と聞こえたので、横目で見ると我が長兄が泣いていた。ちなみにこの長兄。結構な弟好きで、次男と三男である俺に何くれと物やら食べ物で釣り俺達が食べてる姿を愛で、与えた物を使う姿を愛で猫可愛がりをしてくる。 『私の弟達は可愛らしいねぇ。』  とか。  『ほらご覧、シェリー。私があげたお菓子を、あんなに美味しそうに食べている。なんて愛らしいのだろう。』  『ふふ、ダニー。貴方は本当に弟さん達が大好きなのね。少し妬けてしまうわ。』  『あぁ、すまないシェリー。私の妻になるのは、君しかいないのだけは分かって欲しいな。』  『あらあら、分かってるわ。冗談よ。』  とか。本当に仲良いんだ、この長兄と第一王女は。  「はぁ………余も分かってはいたのだがな。勇者が言うのなら、余は何も言えぬ。あい分かった。婚姻を認めよう。」  「有り難き幸せ。必ずや、魔王を滅してまいります。」  「うむ。」  こうして、謁見は終わった。  「ってな感じで、両親と兄達と夕食を食べて語り合って旅立って。今って事さ。」  旅立って5年経った。俺は20歳になっていた。  仲間がいた時も一時的にパーティーを組み、迷宮攻略したりもあるが、基本は一人で行動している。身軽だからと言う理由もあるが、勇者になってからのスキルや祝福の変化があった為だ。  旅立った後、旅の無事でもお願いしておくかな。と思い立ち、故郷の教会に寄った時だった。元々無かった祝福がついていたり、スキルが大幅に変化していた。  その中でも一番単独行動の理由となったのは、我が国の二柱のうち女神であるクリソプレーズ神の加護だ。 クリソプレーズ。太陽と豊穣の女神。緑の女神。様々な名前で呼ばれる女神。その女神の加護は、何とも言えぬ性能のスキルだった。  攻撃力工場。回復力向上。聖属性攻撃力超向上。状態異常無効。自動回復。等など。本当に勇者みたいなスキルだった。  いや、勇者ではあるんだが。  こんなスキルを持っている為、仲間等近くにいる方が危ないな。と思い、単独行動をしている。  そして今。俺は、魔王城のある魔王領に足を踏み入れた。

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