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第4話

 「ん……んん?」  目が覚めると、落ち着いた雰囲気の部屋にいた。どうやら眠らされたらしい。  「言霊か……初見だ……」  言霊。魔力を喉に込めて、言葉を発する魔法。人体の、しかもあまり意識しない部分に魔力を込めるのは繊細な魔力操作の技術がいる。  「さすが魔王か……」  じゃらり。と音がした。気が付けば手首が重い気がする。視線をそちらに向ければ、無骨な手枷と鎖。  「はっ。舐められたもんだな。」  力任せに引きちぎろうとしたが、触れた所に魔力が通らない。舌打ちをした。  魔力遮断の刻印でも入っているのか、引きちぎる事は難しい。やれない事はないだろうが、体力は温存したい。  何か無いかと辺りを見回すが、武器になりそうな物は撤去されている様だ。  だが、解せないのは今の俺のいる場所だ。右手側に目をやると、窓がある。監禁、拘束するにしてもこの部屋はただの部屋だ。  地下牢でもなんでもない。  むしろ、客用の寝室に近い雰囲気を感じる。真っ白なベッドの手触りや、置かれた家具。目上の客人を呼んで入れても問題ない位には、良い物に見える。  「ん?中々長いなこの鎖。」  室内を観察、思考しながら鎖の長さを調べようと限界まで手繰り寄せてみる。結構長い。掛け布団をめくり、足にも枷がついているかを確認。足枷もあった。手首の物と似たような形状、魔力を通さない。同じ物だろう。 立ってみるかと思い、ベッドから降りる。  「柔らかっ!!」  絨毯が馬鹿みたいに柔らかい。毛足が長めの物なのか、俺の部屋の物より格段に上の物だろう。 じゃらじゃら。と音をたてながら室内を巡る。鎖の長さは部屋の端まで歩いて少し余る位。監禁、捕虜と言うよりかは軟禁されていると思って良さそうだ。  悪い扱いはされないのだろうか。と思いながら部屋の中を歩いていたら、扉のノック音が聞こえた。  「誰だ。」  「メイドでございます。入っても宜しいでしょうか。」  「要件を聞いてから判断する。」  「はい。我が主から、食事を共にする為支度の手伝いをする様仰せつかりました。」  食事?適当領地内で食うわけがない。  「断る。そう伝えてくれ。」  「申し訳ありませんが、出来かねます。」  「何故だ。」  「我が主が絶対の為、貴方様を連れて参ります。」  融通が効かなそうだ。それに、これ以上断ったらどうなるかも分からない。だが、食事に何か入れられても困る。  「ならば、そこにいろ。俺は行かない。」  メイドを無視して、サイドテーブルにあった水差しを見る。鑑定にはひっかからない。目に付くもの全て鑑定にかけ、窓際に置いてある椅子に座る。  腰が落ち着かないな。  旅立ちの際に使っていた、国王からの剣はとっくに使えなくなり。旅立ち二年目頃にダンジョン内で手に入れた剣や短剣を使っていた。  その重みが無く、落ち着かない。  扉の向こうにある気配は消えない。  むしろ、魔王の気配がこちらに近付いて来るのが分かった。  手枷か足枷でどうにかなるだろうか。と考えていたら、再びノック音が聞こえた。  「何だ。」  「食事の時間は、とっくに過ぎている。」  「なんでテメェなんかと食わねばならん!!」  「君と話がしたい。」  「はぁ?」  話がしたい。そんな事言われても、俺は話をする要件なぞない。  「断る。そもそも、敵地でメシなんぞ食えるか。」  「……確かに、そうだな。」  扉の向こうの気配は消えないが、小声で何か話しているのが分かった。メイドの気配が消え、魔王が残ったらしい。  「入っても良いだろうか?」  「ダメだ。」  「武器は無い。」  「ダメだ。」  ガチャリ。扉の鍵が開いた。  「それは卑怯だろ!!」  「ここは私の自宅だ。」  マスターキーで開けたらしい魔王は、無表情にそう言った。  「屁理屈だろそれ!!」  「君は……元気だな。」  「はぁ?」  魔王の足音を、絨毯が吸い込みながら俺に近寄ってくる。  そういえばとこちらに向かってくる魔王を見ると、随分とラフな格好をしている。昨日のような、仰々しい鎧は身につけていない。黒いシャツと、黒いスラックスだ。サッと鑑定をかけると、俺と同じ様な魔力封印の道具を身につけているようだ。  「……武器は無い。」  「え?」  「鑑定をかけたのだろう?私は、今武器を持っていない。」  「……ちっ。」  舌打ちをした俺の目の前に立ち、じっと俺を見下ろしてきた。見下ろされている様で、俺も立ち上がる。  「んだよ。」  「……食事をしながら話そう。」  「だから!なんで敵地で食事なんだ!!」  「君と話がしたい。」  「はっ……はぁ?」  俺を見つめる赤眼が、真剣な光を宿していたので変な返事しか出来なかった。  呆気にとられていたら、メイドが数人入ってきて食事の準備が整ってしまった。  「セディ。」  「ここに。」  テーブルセットを終えたメイド達と入れ替わりに、老年の執事の格好をした魔族が入ってきた。頭に山羊の角が生えている。  老年の執事が俺を別の椅子に誘導し、椅子を引いた。大人しく座ると、食事の上に手をかざし毒消しの呪文を唱える。  「いかがでしょうか、勇者殿。」  「え?あ、大丈夫っす。ありがとうございます。」  にこり。と微笑んだ執事は、いつの間にか着席していた魔王の後ろに侍った。俺は諦めて、食事の前の祈りをした。どうせ、大抵の毒は効かない。腹が減ってるのは事実。ありがたく頂いとこう。  ……別に、肉があるからではない。決して。 ***  また、勇者が現れた。  今回の勇者は、若者だった。  月の様な銀髪に、勝気なツリ目。今回の勇者には、かなりの数の加護が付いている。  「君、名前は?」  「あ?アレキサンド。魔王は?」  「アイドクレースという。」  「ふぅん……」  カトラリーの音と、カトラリーと皿がぶつかる音。なんだかんだ言っても、腹が空いていたのだろう。  何年振りの、誰かとの食事だろうか。もう、あれからどれ位の年月が経ったのだろうか。  『おっ!これ美味いな!!なぁクレース!!』  今尚、色褪せず残る記憶。  「勇者。」  「んー?」  「私の事は、クレースと。」  勇者の金色の目が、私を見る。  「……女みたいな、呼び方だな。」  「私もそう思っている。」  「なんだそれ。」  勇者の視線が私から外れ、また戻る。  「俺は、アレクだ。」  「分かった。アレク。」  「……変な魔王。」  「クレース。」  「……クレース。」  「本題に、入ろうか。」

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