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第5話
本題に入る。というので、俺はカトラリーを置いて居住まいを正した。
「君達が、自国で私達の事をどう言っているのかは耳にしている。」
魔王、クレースが話し始める。
俺達人間が、魔王をどの様に認識しているのか。世の中に蔓延る魔物との因果関係について。
「え、ん?ってことは、あんたら魔族は極端に言うと魔力が異常に高い亜人って事になるのか?」
「確かに極端ではあるが、そうだな。」
クレースが言うには、魔物とは。動物などが魔素を含んだ空気や、魔素の多い地域をねぐらにしていると変化してしまうらしい。かといって、魔素の薄い地域でも長年そこにいると動物は魔物になる可能性がかなり高くなるとか。
そして魔族。魔族は基本人型しかいないらしい。誕生した由縁は謎が多いが、魔素を吸収する器官など内蔵の仕組みは人間と同じだそう。
信じられないだろう。と、後で図書館や連れていきたい所がある。と言われた。
「人間は、少なからず魔素を吸収する器官がある。勿論、魔族にもだ。」
「魔素器官か。心臓付近にあるって教わった。」
「そうだ。心臓がここ、その隣にある。」
クレースは自分の胸を指差し、少しずらした。
「そんな事教えて良いのかよ。」
武器があれば、魔力があれば狙える。
だが、魔王は顔を歪めた。
「私は……あまり君達と争いたくはないのだ。」
紅茶を一口。魔王の顔は、悲しそうに歪んだままだ。
「は?何言ってんだ?最近も戦争してるくせに。」
「あれは、向こうからだ。」
自分は魔王であり、民を守る義務があるとか。いや、普通に良い奴だな。
魔王は魔族を、魔物を統べる者。そう考えていた俺達人間、亜人。魔族領近くの国も、それを信じ戦争を吹っ掛けてきたそうだ。地理的には、人類至上主義の聖王国が隣にある。
諍いは、絶えないだろうな。
俺も今は囚われの身。下手したら聞きつけた聖王国の人間が、また戦争吹っ掛けてくるかもな。
「それで?俺はいつ解放されるんだ?」
「まだ、無理だ。」
そりゃそうだ。
「……どうやって、連れて行かれるんだ?」
「特に難しい事は無い。先に食事をしよう。」
魔王は頷き、後ろに侍るセディに視線をやった。セディは微笑み、俺達の紅茶を入れ直した。
「時にアレク。」
「なんだ?」
「私には味覚がない。」
味覚が無い?って事はーーー
ガタッと思わず勢いよく立ち上がってしまった。
「アレク、君は私のケーキだ。」
サァッと血の気が引いたのが分かった。きっと顔が真っ白になったのだろう。クレースの顔が心配そうな顔になった。
「お、俺を食う気か……」
恐る恐る聞けば、クレースの赤眼が俺を真っ直ぐ見つめてきた。息が詰まる。どうしようもなく不安になり、置いていたカトラリーを掴み取った。
瞬間、周りに残っていたメイドやセディが臨戦態勢に入る。構わない。魔力が無かろうとも、負けるつもりはない。
ぐるぐる思考を回転し、誰からとっちめるか考えていたらクレースの手が周囲の魔族を止めた。
「やめろ。私はただ、彼と話がしたいだけだ。」
すっと殺気が消え去る。俺はまだ、カトラリーを握り締めたまま。いつかの、教師の言葉が蘇る。首を噛みちぎった誰かの恋人。血を飲みつくした誰かの父親。キャンディの様に眼球を舐めていた誰かの子供。
嘔吐。
「アレク!?」
「す、すまない……」
「セディ、アレクをベッドに。」
「は。」
大人しく運ばれ、ベッドに降ろされた。俺の意識は途絶えた。
***
勇者と言えども、第二性と呼ばれるケーキとフォークには何か思う事があったのだろうか。
あの日、勇者が現れた日。私の目の前に現れるまで、戦っていた痕跡。こびり付いた同胞達の血に混じる、聖属性魔法の痕跡と勇者本人の血の匂い。
甘い花の様な香り。
味覚が無い分、聞きかじりの知識で言うならばあれこそケーキの甘い香りと言うのだろう。
いつまで経っても残る香り。脳髄にこびり付く香り。腹の奥深くを擽る香りーーー
健やかに眠るアレクを見る。
規則正しい呼吸。閉じられた瞼。髪の毛と同色の、薄茶のまつ毛。
色々話がしたいが、急ぎ過ぎたのか。まともに会話が出来た気がしない。
勇者が目覚めたら、まずは何をするべきだろうか。真っ先にあの場所に向かえば良かったのだろうか。
取り留めない考えを巡らせながら、アレクの頭を撫でてみた。柔らかい髪の毛だ。陽の光に当たったこの髪の毛は、金眼と相まって太陽の様に輝いていた。
少し焼けた肌。柔らかい髪の毛。成人し、覚悟を持った顔。年齢はちょうど20だと言っていた。
初代も私の元に現れたのは、20歳の頃だったか。
「……よく、似ている……」
私の声は、室内で薄まり消えた。
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