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第11話
体調が回復し、魔王城での生活も一年半が過ぎた。あっという間だった。
軟禁されていた部屋は、すっかり俺の自室になり私物も平気で置いている。なんだったら、メイドの代わりに人間の街に買い出しに行く事も、冒険者として紛れ込んで依頼をこなす事も増えて来た。
力の調節は難しいが、中々良い感じにやれていると思っていた。
そんな時、夢を見た。
『勇者よ、教会に来なさい。』
眩い後光に照らされ姿は見えなかったが、女の声だった。
女神からのお告げだろうかと、早速いつもの町の教会へと向かった。
畑仕事をする先代勇者や、いつものちびっ子達に挨拶を返しながら慣れた道を歩いて向かう。
教会に辿り着き、扉に手をかけた瞬間視界が歪んだ。転移魔法だ。しかも上位の。目眩もなく、頭痛もなく柔らかな足裏の感触に戸惑いながら目を開ける。
そこには、2人の人間らしき何かがいた。
『ワタクシを人間らしき何かですって!?女神ですわよ!!』
『ん、いらっしゃい。こちらへどうぞ。』
大声で喚く女性を横目に流れる様なスマートな対応。是非見習いたい。
『ありがとう、僕はカイヤナイト。君達の言う、青の神だよ。こちらの美人さんは、僕の妻で緑の女神。』
『敬うが良いわ!』
本当に女神のお告げだったらしい。
俺よりも小さい身長で、豊満な胸を張り敬えと言われても威圧感が無い。
『威圧なんてしたら、アナタでも気絶してしまうわ!ワタクシ優しい!』
『うんうん。君はいつも優しくて可愛いね。ほら、ケーキをお食べ。』
『あら!ありがとう、愛しい人。』
親子か。
『親子じゃなくてよ!お座りなさい!』
気の所為でも何でもなく、思考を読まれているらしい。出来る限り読まれない様、思考防御を意識して青の神が引いている椅子に腰掛けた。
『うん、素晴らしいね。思考が読みにくくなった。』
『ワタクシが見付けたのです!』
『うんうん。偉い偉い。』
こう、伝説や神々についての本等を読んできたが、実際に会ってみると全然違うんだな。少し……対応に困る。
『君は、僕達に会っても驚かないんだねぇ。』
青の神が言う。
「呼ばれたので、覚悟はして参りました。何かしなければ、何もされないだろう。と。」
青の神が微笑みを深くし、頷き俺を褒めた。緑の女神は、何個目かのケーキを頬張りながら、俺達の会話に聞き耳を立てている。
『早速だけど、本題にいっても?』
「どうぞ。」
俺がそう促すと、青の神から微笑みが消えた。テーブルに肘をつき、組んだ手に顎を乗せて俺を真っ直ぐ見てくる。
『ぶっちゃけ、クレースの事どう思ってる?』
「ぶっちゃ……何です?」
『あ、失礼。クレースの事、本当はどう思ってるのかな?って。』
「どうって……良い奴だな。と。」
急に、バンッ!と音が聞こえた。音の元凶に顔を向けると、緑の女神が叫んだ。
『クレースを好きなの!?嫌いなの!?エッチしたいのですか!?』
「好きでは、ありますが……え、えっち?とは?」
『性行為!交尾!したいのかって聞いておりますのよ!』
ふふん。と満足気な顔で堂々する、緑の女神に俺は反射的に平手で殴りそうになるのを堪えた。なんなら、青の神が平手で緑の女神の顔面を掴んだ。ありがとう。
『んんっ、あのね。君とクレースは、好き合っているのかな?』
「あいつは俺を好きみたいですね。その、性行為込みで。最近分かりやすいです。」
『うんうん。』
それを知った時どう思ったのか。そう聞かれ困ってしまった。
嫌ではない。嫌ではないんだが、そういう類のものでもないような。そんな曖昧な事に困っている。そうぽつりぽつりと話し、気付けば自分の膝に置いた手を見つめていた視線をあげた。
高速で青の神が、緑の神を撫でていた。
素晴らしい手捌きだ。緑の女神はケーキを頬張りながら蕩けている。
『なるほどなるほど。』
高速で撫でる手を止めず、青の神はうんうんと頷く。暫くして、恍惚とした表情で溜息をついた緑の女神が話し始めた。
『ワタクシ、緑の女神でしてよ。』
「はぁ……こんにちは。」
『えぇ、こんにちは。挨拶が出来る子は好きよ。』
先程までの事を無かった事にしようとしているらしい。俺は何も言わず、女神からの質問に答える。
『ワタクシ、アナタを見付けた時思いましたの。』
「あ、申し訳ない。見付けた、とは。」
『そうね。そこからね。知っての通り、勇者とは神が見初めた人間に贈るものですわ。ご存知よね?』
「はい。」
習った事を思い返す。
勇者とは、女神からの恩恵を受けるに値する人間であり、魔王討伐を背負うものだと。そう言うと、緑の女神の顔がぐしゃりと歪んだ。
幼い顔の分、迫力もひとしおだ。
『違っていてよ。ワタクシは探すだけ、命を下すのは安寧の神であるワタクシの夫でしてよ。』
「は……?」
『それに、僕達は魔王討伐の為に君達に頼んでるわけじゃない。』
大変な事になってきた。世界がひっくり返ってしまう。
驚きに思考防御がぶれてしまったのか、二柱が気の毒そうに俺を見る。
『これは一度神託を下ろした方が良いね。』
『そうね。誤解が生まれてしまったようだわ。』
こそこそ二柱が会話する。内容はあまり聞こえないが、神官は今後の対応頑張ってほしい。
『うーん……長い話しになりそうだな。』
青の神が思考に耽る間、緑の女神が俺にケーキやら見知らぬ食べ物を勧めてくる。
見知らぬ食べ物について聞くと、自分達以外にも神がいて、その分別の世界があり特に発展を遂げている世界を管理する神からのお裾分けらしい。
ダイフクとかいう不思議な食感の物が、俺は好きかも。と伝えると、嬉しそうに微笑み持ち帰り用まで貰った。
『うん。今日はこれくらいにしておこう。今日はおしまい。』
青の神がそう言った。
俺が今どの様に過ごしいるかは見ている事、魔王であるクレースと仲良くしてくれてありがとう。と述べられ、俺は送り返された。
「わ。なんだ?いたのか。」
「お前が心配だったのでな。」
返された教会内には、クレースが不機嫌そうな顔して立っていた。俺はそんなクレースを見て、先程までの会話を思い出し、気恥ずかしくなる。
ふと、外を見ると夜の様だった。どうも俺の姿が見えないと、魔王城はてんやわんやしていたそうだが、魔王に神託が降りて落ち着いたとか。
「あー……すまない。来いと言われたので。」
「そうらしいな。無事で良かった。」
いい香りがした。クレースの香りだ。色気のある、けれどくどくない香り。慣れた香りに、緊張していたのか肩から力が抜けたのが分かった。
あ、抱きしめられてるのか。と同時に認識した。
「クレース。」
「なんだ。」
「異世界の食い物を食うか?」
「味は分からない。」
そうでした。
変な雰囲気をどうにかしたくて聞いたが、忘れていた。
俺はすぐに謝り、魔王城へと戻る事にした。
抱きしめられて分かったのは、やはり絆されている事。クレースを見て、クレースの慣れた香りを嗅いで安堵した事。
別に、抱かれても構わないかもしれない。とかいう、とち狂った考え。
愛情は分からない。家族を愛してはいるが、それしか分からない。
何故、クレースは俺を好いてくれているのか。それを知りたいと思った。
「なぁ、クレース。」
「なんだ。」
「俺にキスしてみてくれないか?」
魔王城に戻る道中。裏庭と化した森の中。俺はクレースに言った。
少し前を歩いていたクレースが立ち止まり、振り返る。その顔は、木々の隙間から入る月明かりに照らされていた。なんとも間抜けな、驚きの顔。
「何を言っている?」
「お前、俺を好きだろ?」
***
「お前、俺を好きだろ?」
目の前に立つアレクが、真っ直ぐ私を見つめてそう聞いてきた。
突然の質問に、一瞬思考が停止したが何故そんな事を言うのか問うてみた。
「知りたいから。」
家族愛、友人達に感じる愛。それは分かるが、愛が分からないと言う。兄を見ていれば、柔らかく温かなものなのだろうとは理解している。
「お前が俺を好いてくれているのも分かる。血をあげる時も、可愛いと思う。多分、俺はお前に絆されてるのも分かってる。」
これは愛になり得るものなのか。それを知りたいと言う。
「だからと言って口付けをしろとは、どういう?」
そう聞けば、アレクは嫌悪感があるかないかを知りたいと言った。
先程、教会に迎えに行った時、無事戻ってきた事に安堵し抱き締めてしまった。それをアレクは、あろう事か安堵を感じたと言う。
更に言えば、抱かれても良いかもな。と思ったとか言い出した。
急な事に心臓が早鐘打ち始める。
森と化した裏庭。裏の町へと繋がる小道。そのど真ん中。夜の帳と、木々の隙間から差し込む月光。
照らされているアレクは、ただ真っ直ぐ私を見つめている。嘘はついていないようだ。
一歩。また一歩と近付き、アレクの顎に指を添える。
好いてる事に違いはない。
初代とは違い、私を理解し、魔族を理解しようとしている。楽しそうに笑いもする。はたまた真剣な顔をして、私に意見をしてくる聡明さ。
そんな彼を、どう嫌えば良いものか。
アレクの顔に、自分の顔を近付けるとアレクの瞼がおりた。
唇が重なる。
離れてみれば、なんという事か。
月光でも分かるくらい、アレクの顔が真っ赤になっていた。
私は、衝動的に自室へと転移した。
腕の中に、アレクを抱いたまま。
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