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第2話
翌週の金曜日、また彼のストーリーの投稿があった。
あ…、正社員だけの歓迎会ってやつだ。
長谷さんの周りは案の定、女性社員まみれだった。
しかも、全員みごとに美人ぞろい。
改めて、住む世界が違いすぎるなと感じる。
離れた席の男性社員の顔が心なしか曇っているように見えるし、
主役の長谷さんの顔も少し困っているように見えて、それがおかしかったのでスクショした。
本当なら、ちょっと嫉妬するから残したくはないけれど、後で長谷さんだけ切り取っておこう。
土日が明けた月曜日。
1人で昼食をとっていると、「有さん♪」と声を掛けられた。
顔を上げると、長谷さんがビニール袋を持って立っていた。
「お昼、一緒に食べよう?」
にこにこしている長谷さん。
正直、断りたい。
長谷さんの事は好きだし、ずっと見ていたいんだけれど、話すとすごく疲れる(主に、心臓が忙しすぎて)。
「え、いや…、えっと…」と、俺が言葉を濁していると
「だめ?」と長谷さんの眉毛がハの字になる。
「俺と話しても楽しくないと思いますけど…、それでも良ければ」
というと「やった」とたちまち笑顔になって隣の席に座った。
ちらりと俺の手元を見て、長谷さんは「有さんってお弁当手作りしてるの?」と訊いてきた。
「え、まあ…」と答える。
手作りしてるってほどのお弁当ではない。
「え、彼女の手作り…、とかではないよね?」
そう真剣に問われて、ぶんぶんと首を横に振った。
「違います!てか、彼女いないし、いたことないし…、あ」
余計な情報を付け加えてしまった。
これで十中八九、俺が童貞であることがバレた。
まあ、彼氏もいないし、いたことないし、処女だけど…
「そっか」と、長谷さんは満面の笑み。
バカにしてるのか、これ?と、眉間にしわを寄せていると
「有さんの卵焼き食べたい」と言われた。
弁当箱の中の小さい卵焼きに目を落とす。
節約のため、使う卵は2個だけだから小さい。
「別にいいですけど、特段美味しくはないですよ?」
「やった。じゃあ、俺のおにぎりと交換ね」
と言われ、俺は慌てて拒否した。
コンビニのおにぎり1個と俺の卵焼き一切れでは、流石に違法トレードだ。
「えー…、じゃあ、有さんのおにぎりと俺のおにぎり」
でもこのおにぎりは、混ぜ込みわかめを入れてラップに巻いてぎゅっとしただけだ。
全然料理はしていない。
それでそう言うと
「有さんがぎゅってしたおにぎり…、食べたい!」
とむしろ乗り気になったので、それならばと応じた。
「美味しくなかったら食べなくていいですからね」
と言ったけれど、彼は嬉しそうにただのラップ巻きご飯を食べた。
「あ、そうだ。今週、飲み行かない?」
長谷さんにそう切り出され、俺はううん…、と唸った。
正直、嫌だ。
長谷さん…、というかイケメンは遠くから眺めるものであって、正直関わりたくはない。
ゲイだってバレたら嫌だし。
「金曜でも土曜でもいいし、今週が無理なら来週でもいいよ。
だめ?俺とサシは嫌?」
そんな訊かれ方をして「嫌です」なんて言えるか。
俺は蚊の鳴くような声で「じゃあ…、金曜日」と言った。
「え?ほんと?嬉しい!!」
と長谷さんは笑顔になった後、
「じゃあ、19時でどこか予約しておくね。
あ、連絡先教えて?」
と、彼は携帯を取り出す。
俺も渋々携帯を取り出した。
「あ、ラインでいい?それとも…、インスタとか別のSNSがいいかな?」
と訊かれ、どきりとした。
冷や汗をかきながら「えっと、ラインで…」と、アプリを開く。
俺のラインの連絡先に家族と数少ないリア友(3人)のほかに、長谷さんが加わった。
「じゃあ、お店決まったら教えるね。
あ、昼休み終わるなぁ~。
俺も有さんと社内で仕事したかった~」
と、彼が立ち上がる。
営業部のホワイトボードに”長谷係長 外回り”と書いてあったのは、朝一で確認済みだ。
営業の外回りなんて、俺には脅されても出来ない仕事だ。
それから、長谷さんはお昼休みにたまに現れては、俺の弁当の何かと何かをトレードしていくようになった。
来たる金曜日。
俺はいつも通り定時に仕事を辞め、帰宅する。
19時集合なら、帰宅しても間に合う時間だし、外で時間を潰す術が俺にはない。
外回りから帰った長谷さんとエレベーター前で出くわす。
俺が小さく「お疲れ様でした」と言うと、彼は「お疲れ様。また後で」と口角を釣り上げた。
俺がやったら「うぜぇ…」、なのに、長谷さんがすると「かっこいい…」と思ってしまう。
これだから顔が良い人は…、半ば恨むようにして「はい」と言ってエレベーターに乗る。
長谷さんからは事前にお店の情報は貰っていた。
ご丁寧に地図と最寄り駅まで。
まめな人だ。
めっちゃもてるだろうに、こういう気遣いも忘れない当たり人間としての格の違いを痛感する。
お店の前に10分前に着くと、長谷さんから『お店の中にいるよ。長谷で予約してる』というメッセージが届いた。
長谷さんの方が仕事終わるのが遅かったのに、流石すぎる。
お店の人に震えながら「長谷と言う人と待ち合わせで…」と言うと、にこやかに案内してくれた。
どうやら個室の居酒屋のようで、引き戸を開けると仕事終わりの長谷さんがジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めて座っていた。
いつもかっちりしている長谷さんとのギャップで胸がぎゅんとする。
「お疲れ様」と声を掛けられ
「長谷さんこそ、お疲れ様です」と返して彼の正面に座る。
「ふふ、有さんの私服初めて見た」と長谷さんが笑う。
「すみません、自分だけ着替えてしまって」と謝る。
俺の私服なんて、ただのパーカーにチノパンだ。
「ううん。見られてよかった。
ここのお店、お刺身が美味しいらしいよ。
あ、有さんは地元だから来た事あったかな?」
メニューを俺に見せながら、長谷さんが首を傾げる。
「いえ…、俺、飲み会とか一切いかないし、誘われないので。
ここも初めて来ました」
と答える。
好き嫌いを訊かれ、長谷さんが何品か注文した。
それから、他愛もない話をして、ビールを飲んで、サワーを数杯飲んで、長谷さんが「刺身には日本酒だよ」と1合頼んで、2合3合…、あれ?
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