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第2話 シンデレラストーリー②

 ユアン・ルイス。  ジェラルドは姉の家に戻ると、ソファにごろんと横たわったまま、タブレットを操って、ネットに落ちている彼の経歴を探す。  出身はイギリスのマンチェスター。  両親ともに俳優で、自身も七歳の時にソープオペラでデビューする。  ロンドン・ドラマ・スクールで演技を学んだ後、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで五年間、劇団俳優として実力を培ってきた。  三〇歳の時『大罪』という映画の話題性で時の人となる。 「俺がテレビの端役を本業と決めた時に、超一流になってたんだな、この人……」  三〇歳で発表された映画ということは、すでに今のジェラルドの年齢でオーディションでの抜擢なり、撮影なりが行われていたことになる。  今の自分と比べようもない才能の持ち主なんだろう、などと他人事に感じつつ、しかしそんな大人物についてネットに落ちている情報以上の事をジェラルドは知らなかった。  それもそのはずで、ユアンは基本的に映画、もしくは演劇でしか活動しないからだ。  イギリスでは、テレビ俳優と映画、演劇俳優がどのようなヒエラルキーになっているのか、ジェラルドは知らない。  だがアメリカにおいては、テレビ俳優、映画俳優、演劇俳優の順に格が上がっていく。テレビ俳優の末端にいるジェラルドが、雲の上の人の事がよくわからないのは当然だった。  名前からGoogleで画像を検索する。  共通するのは前髪に柔らかい癖をもつ金色の髪。  アクアマリンを思わせる碧の瞳。  そして英国系俳優によくある顔も体の線も華奢な色白の美形、である。  よくでてくるのは『大罪』の時の、少し苦悩を浮かべた顔だ。三〇歳にしては童顔で美しかった。  ただ役柄によって彼は外見が非常に変化する。  別の画像を見ると無精ひげにぼさぼさの前髪で、頬は痩せこけて目は座っていた。ドラッグに溺れた詩人らしい。  他には威風堂々として、サディスティックに見下し、冷徹に刃を向けている。シェイクスピアの戯曲の主人公だ。  そうかと思ったら、口角をきゅっと上げて、悪戯っ子のようにコミカルな笑顔を見せている。  不思議な人だ。  ジェラルドは暫く、ネットに散逸している彼の破片を捜し集める。  その時、彼のi-phoneに着信が入った。  ディスプレイには長く会っていない妻、アリシアの名前が出ている。ロックを解除して、通話ボタンをスライドした。 「もしもし、ジェラルドだ」  彼女は今、映画の撮影でフランスにいるはずだった。  時計を見る。時差は六時間。向こうはお茶の時間というところだろう。スタッフの活気ある声が聞こえる。  彼女によると、明日にはアメリカに戻るということだった。撮影自体はまだ少し残っているが、撮影場所がアメリカになるのだ。 『夜、ゆっくり食事にでもいかない?』 「ごめん、できそうにない。明日から撮影で、ロスで暫く寝泊まりすることになるだろうから」 『それって、連続ドラマの仕事がついたの?』 「思いがけず。今はまだ多くは話せないけど、テレビドラマの結構メインの役。あ、そうだ。ユアン・ルイスって知ってる?」 『知ってるわ。演劇をやる者なら当然よ。え、まさか、彼と競演するの?』 「うん。そういうことになった。……暫くまた、すれ違いの日々、かな」 『ううん。いいわよ。ちょっと寂しいけど、あなたが俳優の仕事ができることの方が嬉しいもの。むしろルイスと仕事するなんて、羨ましい。珍しいのよ、あの人がアメリカでテレビの仕事をするのって』 「へえ、そうなの」 『がんばってね』 「ありがとう。また暫く離れ離れになるけど…………愛してるよ」 『ええ。愛してるわ』  電話の向こうで、アリシアを呼ぶアシスタントの声が聞こえる。彼女は慌ててジェラルドにサヨナラを告げると、電話が唐突に切れた。  ジェラルドは携帯を投げ置いて天井を見上げ、ふうっと息をついて思った。  いつから、妻に『愛している』という言葉を言うのに、こんなに疲れてしまうようになったんだろう、と。

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