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第13話 好きになった人②

 スタジオの機材搬出用トラックが何台も停められた駐車場にユアンが辿りつくと、一つの白いトレーラーハウスの前で、ジェラルドが立っている。手元で弄んでいるi-phoneのディスプレイの白い光が、無精髭の似合う彼の彫の深い整った顔を照らしていた。 「ネイサン」  ユアンはジェラルドに軽く手をあげて、歩み寄る。顔をあげたジェラルドの髪は、少し濡れていた。 「すまない。急に押しかけて」 「構わない」 「髪が濡れてる」 「ばたばたと片づけて、汗をかいたから、軽く流した。あんたは?」 「撮影所内のシャワーを借りた。今夜は泊めてくれるだけでいい」 「ロスでは、ホテル?」 「いや、セカンドハウスを持ってる。ただ今夜は、ちょっと帰れない。会いにくい人が来るかもしれない」  少しふくれっ面のユアンを、ジェラルドは可愛いと思う。同時に、その会いたくない人という人が、誰なのか、気にもなる。 「背中の彼女?」  思わず口にしてしまったジェラルドの問いに対して、ユアンがじろり、と睨みつける。詮索されるのは嫌いだったことをジェラルドは思い出した。 「ごめん。入って」  少し肩をすくめてジェラルドは中へ招待した。  手配されたトレーラーハウスは、いかにも家、というような外観をトラックが引っ張っているようなものでも、大物俳優がどかんと用意させている動くビルディングという感じのものでもない。本当に、機材搬入トレーラーの荷台の外観で、中はきちんと生活できるように作られているものだ。  カーペットがひかれ、ソファーとテーブル、そしてデッキとテレビがセットされたリビングと、その奥には小さなキッチンがある。キッチンの隣がシャワールームとトイレ、洗面台の水回りがあって、一番奥がベッドルームになっている。天井はユアンにしてみれば十分、ジェラルドだと少し低そうに見える程度だが、それでもきちんと高さがとられており、ホームコメディのセットとしても活用できそうなものだった。 「すごいね。さすが主人公待遇」 「もともと俺の為に用意されたものじゃない。これはロケ先でエキストラやスタッフが休憩したり、身支度したりするために用意されてるものだ。それを借りてる」 「どうしてそんなものを? 疲れるだろ?」 「理由は聞かないで。でも、慣れてるから、平気だ。むしろ俺が幼いころ過ごしたトレーラーハウスなんてのは、もっと狭くて、そこに家族が四人、すし詰めになってた。最悪だよ。それに比べたら、十分すぎるくらい」  苦笑して、ジェラルドは冷蔵庫の中を漁る。そうしてそこから缶ビールを二つと、戸棚からミックスナッツを手にしてリビングへ戻ってきた。 「難を言えば、冷凍庫の機能が申し訳程度、ってところかな。ビール飲むにはちょうどいいけど、ロック作るには氷がもたない」 「飲みたくなったら外に行けばいい」  ビールを受け取り、ユアンはソファに座る。ソファはベッドになるタイプのものだ。その横にはアコースティックのギターが立てかけてあった。 「弾くの?」 「俳優業の合間に。趣味程度だけど。親父の影響かな」 「お父さん、何してる人?」 「自称ミュージシャン。本業は農家」  ジェラルドはギターをそっと自分の隣に移し、代わりに自分がソファーの横、カーペットの上に直接に座る。  缶ビールのプルトップを開けて、お互いの今日の仕事をねぎらった。 「トレーラーハウスに住んでたのか?」  ユアンが尋ねた。 「四つまで。ネバダに住んでたんだが、親父はもともとカリフォルニアのグラスバレーにある農地を管理する傍ら、ラスベガスやリノで音楽やったり、端役の俳優やったり、いろんなことをする人で、いつも仕事があると言っては、トレーラーハウスに家族を積み込んで移動してた」 「大変だな」 「今、思えばね。移動する小さな家だから自分専用の部屋や玩具を持てるわけでなし、贅沢もできない。ただ、子供心には面白かったよ。毎日がキャンプみたいでさ。母さんや姉さんは嫌だったみたいでけどね、そういう生活。その上、親父も勝手な人で、家族をそうやって連れまわす割には、自分は夜な夜な飲んだくれて、酒場の姉ちゃんの部屋に転がり込むなんてのもしょっちゅうだった。母さんと親父がひさしぶりに顔を合わせれば無言の喧嘩。口を開けば大喧嘩。最後には母さんが親父を見限って、俺と姉さん連れて離婚してイリノイ州の実家を頼ってシカゴへ。そこで、俺の冒険の日々は終わり」  ジェラルドは面白おかしくそう語った。

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