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第15話 好きになった人④
ジェラルドの脳裏には、ふと『御近所物語』の中のユアンが思い出される。
父親のことをジェラルドに話す時の穏やかさと、ドラマの中で見せた拒否感の間のギャップが、やはり拭えない。
その複雑さは、きっと離婚を経験した幼少期にあるのだろうとは思ったが、それ以上踏みこむ勇気は、ジェラルドにはなかった。
「ごめん、ナイーブな問題だったな。詮索されるの、好きじゃないのに」
ジェラルドは大きな肩を心持ち小さくすくめる。ユアンは首を振った。
「詮索『だけ』されるのが嫌いなだけだよ。君だって、自分の事を話してくれた。断片的な情報だけで、知られたような顔をされると、会話をして、こうやって互いに理解をしあう楽しみがなくなるじゃないか。対等な関係は、好きだよ」
ユアンは穏やかに微笑みかける。
可愛い。
可愛くて、可愛くて、その笑顔にジェラルドは軽く目まいすら覚える。
理性がマヒしそうになるのを押しとどめ、小脇に抱えたギターをつま弾いた。
「ネイサン、もっと歌を聞かせくれないか?」
ユアンが柔らかに求める。
「ゲームする予定じゃなかったのか?」
「私は、君の声が好きなんだ」
「そう言ってもらえると嬉しいな。嗄れ声って言われる事の方が多いから」
「心地いいよ」
ユアンは足を組んだまま、ソファに猫のようにゆったりと上半身を預け、ジェラルドに顔を寄せて、静かに目を閉じる。
少し落ちてきた前髪が、ジェラルドの額にかかりそうなほどの距離だった。金色の睫毛が長い。肌は化粧もしていないのに、同じ中年を迎える男性とは思えない程白く滑らかだった。
触れたい。
その欲求がうずうずとジェラルドの手を震わせる。
これほど露骨な誘惑があるだろうか。もしこれが女性だったら、間違いなく唇を奪い、ベッドへ誘っている。
しかし相手は男で、それも共演者で、格上の俳優だ。彼の行動が一々媚態じみているとしても、それは自分の受け取り方の問題である可能性が非常に高く、それを見誤って一方的に思いを遂げたが最後、ありとあらゆる騒動が新聞を騒がせるだろうと、容易に想像できた。
だいたいからして、トレーラーハウスでのセックスなんて、その揺れから好奇の的に晒される。それを恐れてキャシーが近寄ってこないように、わざわざこの車を借りたのではなかったか。
自身にそう言い聞かせるものの、こういう出会いがあるなら、素直にホテルを借りておけばよかったか、などとも考える。借りてどうするつもりなのか、冷静な理性に切り返されながら…。
とにかくもやもやとしたまま、ギターの弦を適当にかきならす。
「ん?」
いつまでたっても歌が聞こえない為、少し眠たそうな顔で、ユアンがジェラルドを見る。無防備なその顔は、少女のように可憐だった。
「リクエストは?」
高鳴る胸の音と、熱くなる体に気付かれまいと、ジェラルドは何気に視線を逸らす。父親の奔放さを恨みはしないが、彼から受け継いだ感性に正直な節操のなさが今は恨めしかった。
「あんまり、歌のタイトルを知ってる方じゃないんだ。君の得意なものでいい」
「じゃあ一曲。ロマンチックなやつだけど、笑うなよ」
ジェラルドはそう言って、ギターのメロディーラインを思い出す。
それは父が酒場のネエちゃんを口説く時に歌っていた、切ないラブソングだった。
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