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第24話 言えない罪②
撮影は、どうなっているのだろう。
ユアンは気になっていたが、どうすることもできない。
ドラマと裁判のスケジュール調整はエージェントに任せているし、それを信用するしかない。今自分にできる事は、自分が決めた事と、それを成し遂げるために残してきた仕事の始末をすることだ。
そう思い、目の前の事に集中しようとするのだが、
「どうかした?」
「ん? いや。続けてくれ」
共演者から上の空を指摘されて、苦笑するしかなかった。思ったより、ドラマの方が気になっているらしかった。
打ち合わせは半年後に予定している、ロイヤルエクスチェンジシアターの演目の件だった。『スキャンダル』がシーズン1で終わるにしろ、シーズン2を続けるにしろ、そのあたりでひと段落がつくのは間違いない。ユアンはそれに併せて、密かにある一つの計画を立てていた。今回の打ち合わせはその計画の前段階なのである。
打ち合わせが終わったのは22時30分を過ぎた頃。
「これからパブにでもいかないか」
共演者に誘われて、ユアンはそれに応えようとする。そこで胸元のi-phoneがふるえているのに気が付いた。
メールの着信かと思ったがなかなか切れることがない。画面を見ると公衆電話からの着信となっていた。
また継弟からだろうか。でも公衆電話とはどういうことだろう。
ユアンはいぶかしみながら電話に出る。
『ジェラルドだ』
予想もしていなかった相手に、ユアンは息を飲む。長く聞いていなかった声に、心音が高まった。
『よかった。出てくれて』
「どうして携帯を使わないんだ?」
『海外回線契約手続きをしわすれたんだ。オプションでもつけてなかったし』
言っている意味がよくわからなかった。それはユアンが、ジェラルドはニューヨークにいるはずだ、と思っているからだ。
電話の背後からは「ニューヨーク行きの……」や「ヒースロー行きの……」というアナウンスが聞こえる。
ニューヨークでの撮影があるのだからロサンゼルスにいるはずはないし、ニューヨークにいるのならば、ニューヨーク行きの空港アナウンスはあり得ない。わざわざ連絡してくる事からも考えて、彼がいる場所の可能性はそう多く考えられない。ヒースローでないとするなら……。
「君、今どこに? まさか……マンチェスター国際空港にいるのか?」
『うん。あたり』
ユアンはそれを聞いた瞬間、待っているようにという旨だけ告げて、通話を切る。誘われたパブでの語らいもキャンセルして、その場の関係者に満足に挨拶することもなく、外へと飛び出した。
路上のコインパーキングに停めた車に乗り、エンジンをかけると慌ててアクセルを踏む。
時計を見る。時計は23時になろうとしている。マンチェスター国際空港自体は二十四時間発着だが、22時を過ぎると極端に人気が失せる上に、そこの到着ロビーはベンチすらないのだ。そこで一人待たされるジェラルドを思うと、いたたまれなかった。
A5103線に入り、さらにアクセルを踏む。
助かるのはこの時間に空港方面へいく車が少ないことだ。普段は比較的安全運転を心がける方だが、その時は知らず知らずにギアは六速に、アクセルはいつもよりも深く入っていた。
電話を受けてから20分と少し。ニューヨークからの直行便はないはずなので、考えられるのは乗り換えであるヒースローからの到着便。その場合、ターミナルは3。
そこに彼がおとなしくしているかどうかはわからなかったが、とりあえず手がかりがない以上、ターミナル3の最寄りパーキングに停めて外に出る。
あたりを見回しながら携帯をかける。すぐに彼の携帯はつながらない事を思い出して、思わず舌打ちしてしまう。
もっと電話がかかってきたときにはっきり聞いていればよかった。
「ジェラルド…どこだ?」
後悔に焦りつつ、人気のない空港内を歩き回り、空港職員と思われる制服姿に公衆電話がある場所はどこかを尋ねる。彼はバス停へ続くエントランスの方面を指さす。その方向に目をやると、バスのいないバス停の屋根の下でポールに背を預ける見慣れた大男がいた。
癖の強い黒髪に、無精髭。着古したTシャツに薄手のパーカーとジーンズ、そして大きなボストンバック。まるでバックパッカーのような出で立ちのジェラルドは、携帯画面を眺めてぽつんと一人で立っていた。
「ジェラルド!」
ユアンは走り寄る。彼の姿を認めたジェラルドのあからさまにほっとした顔が嬉しくて、ユアンは思わず彼の首に抱きついてしまった。
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