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第6話

 俺は、仕事を早々に終えて定時に会社を飛び出した。先輩から就業時間の少し前に、今晩飲みに行くぞ、ってお誘いの内線があった。いつもは、二つ返事で行くねんけど、今日は丁重にお断りしたら、不倫は絶対やめとけよ、ってまた言われたわ。色々世話なってるし心配もしてくれるし…ええ先輩やねんけどな…。    金曜日の夕暮れの新幹線のホームは、疲れた顔のサラリーマンばっかりや。ツマミと缶ビール持って乗り込む姿を見とったら、俺も何年か後には、あんな風になるんやろか…ちょい淋しいな。  でも、今は、唯斗や。俺がいきなり東京行ったら唯斗はどう思うやろ。そもそも会ってくれるんかどうかもわからんけど。  新幹線で東京に向かってる俺を唯斗にどう伝えるか、俺はスマホを握りしめながら迷ってた。  SNSの文字より、やっぱりちゃんと声を出して喋って、唯斗の声も聞きたいやん。  新大阪を出て京都も過ぎてから、俺は車両との間のデッキに行って、スマホの中の唯斗のアイコンをタップした。  唯斗の声を聞いたら最初に何て言おう。  呼び出し音が聞こえた。よかった…繋がったってことは着拒も抹消も消されてなかったってことやな。  俺は、左耳に集中した。    プツッ……。    俺は、もしもしの、も、を言おうと準備してたんやけどな。  切られた。      そうやんな…想定してたやろ。  今更なんやねん、て話しやわな…  俺はスマホを頬に引っ付けたまま、動かれへんかった。  何、ショック受けてんねん…大崎健吾。半年も()ったらかしにしといたくせに。    デッキ内のゴーッていう騒音を聞きながら、俺は考えた。  唯斗の家の場所は知ってる。引っ越ししてへんかったらの話しやけど。とりあえず家まで行って、ポストに手紙を入れてこよか。東京駅に着いたら、便箋と封筒買って、どっかの喫茶店で手紙書くか…。  車両に戻って、座席に座ろうとした時やった。SNSの着信のお知らせの文字がスマホの画面にあった。  えっ……⁈  唯斗からや…急いでタップした。  手を合わせただけのスタンプがひとつ。    さっき、電話に出られへんかったから、ごめん、の意味やろか?  数分後、またSNSや。 『30日後にかけ直すね』  何やねん…来月にかけてくんのか?  で、また、『分』だけが送られてきた。  わかってるわ、おっちょこちょいが。  仕事の最中やってんなぁ…ごめんな、唯斗。  俺は、顔がニヤけていくのを止められへんかった。  それから、30分の時間潰し。  スマホのネットニュースとか見たけど、文字を目で追ってるだけで、内容が頭に入ってけえへん。ついつい、画面の左上の時間ばっかり気にしてる。  あと、10分。  俺は、またデッキに向かった。30分後()うても、もっとかかるかもしらんのに、でもじっと座ってられへんかった。  車両扉の小さい窓から見える外の景色は、真っ暗で何もわからん。さっきはニヤついたけど、外の景色見たら不安な気持ちになる。唯斗に会えるやろか。  あっ……かかってきた。思ってた時間より5分も早い。 「もしもし…」 (ああ、健吾?…ごめん、さっきは切ってしまって…打ち合わせ中でさ、どうしても出られなくて) 「いや、忙しい時にかけて悪かったな」 (ううん…それより久しぶり。元気だった?) 「おお…元気やで」  唯斗の声が嬉しそうに聞こえんのは、俺の勝手な思い込みやろか…。 (…健吾、今どこ?) 「えっ……と、実はな…」 (ひょっとして、新幹線の中とか…?) 「…何で、わかんねん」 (あはは…やっぱり。だって音がするもん) 「…音?」 (そうだよ…いつもこっちに来る時、新幹線の中から電話くれてただろ?その時と同じ音が聞こえるんだよ) 「お前、耳ええなぁ」  何か、感心してもうた。   (そんなことより、俺に会うため?) 「ああ、そうや…お前に会って話したいことあるんや」  もう少し、謙虚に言えんのか、俺は。   (後、どれくらいで着くの?) 「えぇっと…そやな、1時間くらいやな」 (わかった…じゃあ、いつもの改札出たところで待ってるから) 「おお…じゃあな、また後で」 (うん…後でね)  唯斗の声、絶対、嬉しそうやったやんな?……って誰に訊いてんねん。    ちょっと…いや、かなりホッとした俺。  唯斗、待っててな。もうすぐ、行くで。

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