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第7話

 新幹線は定刻通りに東京駅に着いた。  ホームからの階段を下りて改札口を出たとこらへんで唯斗がいつもそこで待っててくれてたな。  あっ、そうや…アレ買って来たったらよかった。しもたなぁ、忘れてたわ…。  俺は、人の流れに沿って改札口に向かった。  いた…唯斗や。俺を探してくれてるみたいや。キョロキョロしてる。  やっぱりちっこい顔してんな。それに改めて見たら、唯斗は可愛い顔してるわ。二人連れの若い女子が唯斗を二度見して、何か言うとる。アイツは今までスカウトとかされたこと無いんやろか…っていうか、アイツはまだ俺に気い付けへんのか? 「唯斗…」 「あっ⁈…ああ、健吾……ごめん、分からなかった」  めっちゃ驚いてるやん。目丸なってんで。そうや…俺は今日はスーツやった。いつものジーンズ姿とちゃうわな。 「スーツ似合ってる。サラリーマンしてるんだ」 「当たり前や…それより、豚まん買うてくんの忘れたわ」  唯斗はケラケラ笑った。 「もう…久し振りなのに、いきなり豚まん?」 「お前、好きやろ?」 「好きだけどさ…ったく、健吾だなぁ」  まだ、笑いよる。 「じゃあ、次は忘れないでよ」  えっ…次って。放ったらかしにしてたん怒ってないんか?嬉しいこと言うてくれるやん。 「おお、今度は50個買うて来たるわ」  唯斗は、やったー、って喜んでるし。  コイツ、やっぱり可愛いな。 「ねぇ、健吾。どこ行こう…お腹空いてるでしょ?」 「そやな…けど、どこも人が凄いな」  おい、大崎健吾……そやな、って、何をしれっと会話してんねん。ちゃんと言うことあるやろ。 「今日は金曜だし…仕方ないよね」   唯斗も何で、昨日も会いました、みたいな感じで普通に話してくれんねん。 「じゃあさ、久しぶりに『紅蘭』にでも行く?」 『紅蘭』は唯斗の家の近所の街中華の店や。俺はそこのかた焼きそば好きで、唯斗の家に泊まってはしょっちゅう食べてた…ってことは、今晩、唯斗の家で泊まるんか? 「ええな。そうしよか」  俺たちは東京駅から電車を2回乗り換えて唯斗の家の最寄り駅に着いた。 「少し前にね、テレビ番組で街中華の紹介で『紅蘭』が映ってさ、それから結構混んでるんだよ…テレビの力はすごいよ、本当。だから俺も店に入るのは久々なんだ」 「店が繁盛するのはええけど、常連客にはちょっと迷惑な話しやな」  なぁ…わかっとるやろな。俺は飯食いに来てるんとちゃうねんぞ……まぁそやけど、せっかく唯斗は楽しい雰囲気にしてくれてんねんから、こういうのはタイミングや。  ありがとう、と、ごめん、と、それから、何でや、の順番はちゃんと決めてるし。  唯斗の言った通り『紅蘭』の店の前には行列ができていた。 「…やっぱり。じゃ、今日も裏の手を使うか」 「何やねん、裏の手って」 「常連客の特権だよ」  唯斗は、自分のリュックからペンと手帳を出した。 「紅蘭の女将さんと駅で偶然会った時にね、お店に行きたいけど、いつも混んでいて行けないことを言ったらね、特別にテイクアウトしてくれるって。汁物以外でね」  まぁ、それはお前が可愛いからやろ…その笑顔で女将さんたぶらかしたな。  唯斗は、健吾は餃子とかた焼きそばで、俺は炒飯、それと、あっ、唐揚げと、レバニラも、ってブツブツ言いながら、注文を書き終え、手帳からそのページを一枚破った。 「ちょっと、待っててね。注文渡してくるから」  唯斗は小走りで、行列を横目に店の中に入っていった。数分もかからないうちに、店から出て来た。 「お待たせ。今日は特に混んでるみたい。30分か40分後に取りに来てって」 「それで大丈夫なんか?」 「そう。まぁ受け取りは、他のお客さんの手前、裏口からもらうんだけどね」 「それは、お前だけのシステムなんか?」 「さぁね…でも、以前なら週の半分以上は、仕事の帰りに晩ご飯で食べに寄ってたのにさ、今は行けないんだもん」  お前は、人たらしやな、ったく。ってことは、俺もたらされてんのか? 「じゃ、とりあえず家に帰ろうよ。後で俺、取りに行くからさ」 「そやな、そうするか」  唯斗の家は、紅蘭から歩いて10分ほどのワンルームマンションの2階や。  唯斗は、玄関の鍵を開けると、どうぞ、って俺を中に入れてくれた。  いつ入っても、部屋の中はキチンとしてる。玄関もええ匂いするし。今日も、ホンマに突然やのに、玄関横のキッチンの流し台にも、汚れた皿の一つもあれへん。  唯斗は部屋の灯りを点けると、すぐにクローゼットを開けた。 「健吾、はいこれ。スーツ皺になったら困るでしょ」  唯斗は、ハンガーとスエットの上下を出してくれた。俺がここに泊まる時にいつも着てたヤツや。 「あっ…ありがとう」  俺は、お前を半年も放ったらかしにしとったのに、前と変わらん態度で接してくれて…どんだけ心広いねん。 「ちゃんと洗濯してしまってたよ。オカズにしてないから安心して」  唯斗は、ニタッて悪戯っぽい笑顔で言いよる。  お前…応えに困ること言うな、アホ。  俺は、上手いこと言い返されへんかったから、フン、って鼻息だけ返したった。で、スーツの上着を脱いだ。

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