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第五話:弓削「世話を焼きたい」
さっき、ルカを抱きしめたとき、私は確かに落ち着きを取り戻した。
渇望していた何かが満たされていくのを感じ、これなら二晩、彼をここへ泊めても理性を保ったまま過ごせるだろうと、思えた。
しかし、だ。
シチューを仕上げるため、キッチンへやってきた途端、また飢えたような気持ちが込み上げてくる。
それを自覚せぬよう、必死に堪え、シチューに調味料を加えた。
朝淹れた紅茶を捨て、新しく淹れ直す。
パンを切り、軽くトーストし、皿に盛った。
きっとルカは「美味しい」と、頬張ってくれるだろうと、思い浮かべながら手を動かす。
「弓削さーん、着替えましたー」
バスルームからルカの大きな声がする。
「今、行く」
脱衣所へ迎えに行くと、私の部屋着を纏ったルカが、困ったような顔をして片足で立っていた。
「すごく、ダボダボで……」
その姿はあまりに可愛らしく、私は思わず笑ってしまう。
こんな風に笑うのは、一人で暮らしているとなかなか無いことだ。
そんな私を見て、ルカが少し拗ねたような顔をするから、ますます可愛い。
私は彼に歩み寄り、ヒョイっとお姫様抱っこをした。
「え?そんな。肩を貸していただければ歩けます」
「気にしなくていい。また転んだら大変だし、身体の大きな私には造作もないことだ」
こうして彼と密着すると、再び私の心は満たされる。
これはなかなか厄介な現象だと自覚しながらも、彼をリビングのソファへと運んだ。
壁の時計を見ると、もうランチの時刻になっていた。
ソファ前のローテーブルに二人分の食事を並べ、私も彼の隣に座って一緒に食べることを選ぶ。
ルカは表情が豊かで「美味しい!」と目を丸くしながら、スプーンを口へと運んだ。
思えば、私が料理をするようになったのは、この山奥へ引き篭もってからだ。
ということは、私の手料理を食べたのは、ルカが初めてだと言える。
彼は昨晩、ほとんど眠っていないのだろう。
風呂に入って身体が温まり、腹がいっぱいになってくると、眠たそうに目を擦り始めた。
「鎮痛剤を飲みなさい。そして眠るといい」
「ありがとうございます……。そうさせてもらいます」
小柄な彼にとっては、ソファも充分なベッドになった。
身体を横にするとすぐに、スースーと穏やかな寝息を立て始める。
私は彼にブランケットを掛けてやり、ローテーブルの食事を片付ける。
食器を洗いながらも、ルカが眠る様子が気になって、何度も視線を向けてしまった。
彼の着ていた物を洗濯機へ投入し、もう一度紅茶を淹れ直す。
そして私もタブレットを片手に、ソファへ座る。
ルカが枕にしていたクッションをそっと外し、自分の膝を滑り込ませた。
ルカは「んー」と寝返りを打ち、私の膝枕に頭を擦り付けるような仕草を見せ、またスヤスヤと眠る。
襟足の間から、彼の白いうなじが見え隠れしていたが、今のところ理性を保てている。
それは私としては誇らしいことで、タブレットで本を読みながら、満ち足りた午後の時を過ごした。
でも、私の鋭すぎる嗅覚は、本当はもう気がついている……。
ルカの甘く淫靡な匂いが、一段階強い、よりエロティックな香りへと急速に進化し、私の胸を焦がそうとしていることを。
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