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第八話:ルカ「これがヒート?」

身体は熱っぽく、呼吸は乱れている。 しかし風邪とは明らかに違い、性的な昂りが強い目覚めだった。 いつのまにか、隣に寝ていたはずの弓削さんがいない。 こんな姿を見られずに済んで良かったという気持ちと、彼に触って欲しい、彼に抱いて欲しいという飢餓感が、僕の気持ちを揉みくちゃにする。 ベッドからフラフラと降り、足を引きずって歩きながら彼を探す。 「弓削さーん、どこ?弓削さーん」 トイレにも、バスルームにも、キッチンにも姿はない。 冷蔵庫から勝手にミネラルウォーターを出し、ソファへと移動したところで、ローテーブルに手紙が置かれているのに、気がついた。 『ルカへ 谷に行って、君のリュックを取ってくる。 やはり抑制剤を飲んだ方がいいだろうから。 辛いだろうが、私が戻るのを待っていてほしい。 写真に関しては、コンテストに出すか、私に買い取らせる自分で決めなさい。 早く戻れるように努力します。 弓削より』 窓の外を見ると、強い雨が降っていた。 弓削さん……。 彼が僕のために雨の中出掛けてくれたとわかっている。 なのに、置いて行かれたように感じ、悲しくて悲しくてたまらない。 僕は一人で寝室へ戻り、ブランケットをかぶってシクシクと泣き続けた。 — ガチャ。 玄関の扉が開く音がする。 僕は慌ててベッドを降り、彼のところへ駆け寄ろうとするが、廊下で派手に転んでしまった。 「ゆ、弓削さーん、弓削さーん。早く、早く来て」 僕の声を聞きつけた弓削さんが、駆け寄ってきてくれた。 彼はまだマウンテンパーカーを羽織ったままで、雨の雫がポタポタと床に落ちている。 「ルカ」 彼はその場でマウンテンパーカーを脱ぎ捨て、僕をキツく、キツく抱きしめてくれた。 「君のリュックを取ってきたよ、ルカ。びしょ濡れだったけれど、ちゃんと持ち帰った」 僕はコクリと頷くことしか、できない。 「道中ずっと君の匂いを感じていた。だから平気だと思っていたが、物理的に距離が離れれば離れるほど、ルカを足りなく感じ、ルカを欲して、欲して、頭がおかしくなりそうだったよ……」 また僕はコクリと頷く。 「まだ君に会って、丸一日しか経っていないのに、どうしてこんなにも君が恋しいのだろう」 弓削さんは涙を拭ってくれたけれど、せっかく取ってきてくれた抑制剤を今すぐ飲めとは言わなかった。 いや、彼の中で、そういった判断力が麻痺しているのかもしれない。 僕は震える声で、弓削さんに今の気持ちを伝える。 「ゆ、弓削さん、ぼ、僕を、抱いて……」 その一言に弓削さんは僕を抱き上げ、怒ったような足取りで、ベッドへと運んでくれた。 そしてベッドに降ろすや否や、すぐに唇を合わせてくれる。 それは僕にとって初めての経験。 塞がれた唇の感触だけで、蕩けてしまいそうだった。 彼の唇は僕の顎を、首筋を、胸を這い、熱い吐息が肌にかかる。 服を脱がされ、身体を手のひらで撫でられれば、僕は身体をくねらせる。 弓削さんが僕を見る目には、優しさよりも、獰猛さが浮かんでいた。 その目つきは、僕をさらに昂らせ、もっともっと強い刺激を求めたくなる。 弓削さんも、着ていたものを全て脱ぎ捨てた。 「い、いれて。お、おねがい、ねぇ、ゆ、ゆげさん」 自分の声とは思えない甘ったるい声が、喉の奥から発せられた。 僕の秘部が潤み濡れているのが、わかる。 この身体がΩだと、実感したことはなかったが、これこそが、何よりもの証拠だ。 「いれるぞ」 弓削さんの雄々しい声がそう告げ、僕は頷く。 望んだとおり、身体の奥底で彼を感じられ、揺さぶられ、ひたすらに喘ぐ。 気持ちよくて、気持ちよくて、僕は高いところに登り詰めたあと、果てた。 弓削さんも呻き声とともに、僕の中で達したのがわかる。 でも、一回きりでは終わりになどならず、僕らは抱き合い続けた。 気持ちよすぎて薄れる意識の中、αがΩの首筋を噛んだら番にしてもらえる、という話を思い出す。 噛んで欲しい。 僕を弓削さんのものにして欲しい、強くそう思った。 彼の唇は何度も首筋を掠め、歯だって当たったけれど、ただ息が漏れるだけで、噛んではもらえなかった……。 何回か果てたのち、意識が朦朧としている僕に弓削さんが口移しで抑制剤を飲ませたのがわかった。 「ゆ、弓削さ、ん」 僕はそれを飲み込んで、意識を手放した。

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