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第22話 ソフトクリームといちご

 それから11階の休憩室を見せてもらった。 「ソフトクリームを用意しているんですよ。 皆さん、いかがですか?」 期待の美味を北原院長が用意してくれていた。 顔を見合わせて、思わずニコッと笑ってしまった。 「じゃ、三輪さん、皆さんにお願いします」 「はい、かしこまりました」 「あ、彼女はこのソフトクリームを開発している研究員で、三輪さんです」 「へえ〜」と声を揃えてしまった。 北原院長も笑っていた。 どう見ても普通のおばさんというか、 お孫さんがいるようなシニアにしか見えないんだよね。 なのに研究員なんだねえ。へえ……。 そして、ソフトクリームにイチゴをいっぱい乗せてくれた。 「皆さん、そちらの休憩室に行かれますか? 屋上の庭園にも椅子やテーブルがありますが、 どちらがよろしいですか?」 「ああ、ではこちらでいただきます。 歩いてる途中でこぼしそうなので、ここで結構です」 これは俺が代表して言ったつもり。 楓がニタニタしていた。 「どうぞ、溶けますから、 どんどんお先に召し上がってください」 俺もさっさと食べ始めていた。 なんて美味しいんだろう。 ミルクの味わいが濃い。濃厚だけどしつこくない。 おまけにこのイチゴ、香りが確かにすごいわ。 鼻のあたりが全部イチゴになったのか? というくらい香りで満たされた。 颯太もすごい勢いで食べてた。 俺と目が合うとにこっとするものの、 手は休んでないな。 楓を見ると、満足そうに一心不乱に食べていた。 父はどうなんだろう? 母と交互に見ていたが、無言でどんどん食べていた。 淳一も同じだ。帰ってから、なんと言うだろう? 北原さんは三輪さん達と、なんか楽しそうに喋っていた。 友達感覚なのかな? ここは病院なのにワンダーランドだな。 比べるのも失礼なくらい、何もかも凄かった。 これなら医者だって押し寄せる。無理はない。 繁盛して独り勝ちだよ。 こんな強敵がいたら、 これからのうちの病院はどうすればいいのかな? あ、そうだ。今聞こう。 ちょうど食べ終わった。 「すみません、ちょっと伺いたいのですが。 うちの病院の食堂の味がもう一つなんですよ。 どなたかご指導に来ていただくことはできますか? そういうサービスはありますか?」 「ああ、そうですね。 それは菜の花フーズに聞いてみないと分からないですね」 すぐ電話してくれていた。 夏さんかな。 そしてなんか話していたが……。 「なんかすぐにはお返事ができないみたいなんですよ。 後日でもいいでしょうか?」 「はい、もちろんです。いつでもいいので、お待ちしています」 ちらっと父を見ると、天を仰いでいた。 そうだろうね。気持ちは分かるよ。 最後にダメ押しで、思い切って尋ねた。 「あのう、失礼だったら申し訳ないのですが、 本館やどこもそうなんですが、 すごく外来が詰まっていて、 混みあっている印象を受けたのですが、 理由があるんでしょうか?」 ぷーっと吹き出して笑っていた。 「やっぱり目立ちました? そうなんですよ。 あれが苦肉の策でして、 精いっぱい増やした診察室なんですよ。 もういくら増やしても患者さんの方が増えるので、 処理できなくて、医師やナースを採用するのですが、 それでもさらに患者さんが増えていくので、 結局今は800人以上のスタッフが、 いることになっちゃったんですよ。 それで、せめて整形外科関連をよそに移したくて、 隣の方に土地を譲っていただけるように、 何回もお願いしているのですが、 中々譲っていただけなくて、 こういう現状になってるんです。 なんか満員電車みたいだったしょう? 恥ずかしいんですが、しょうがないんですよね」 はあ‥‥‥、聞いて良かったのか? 聞かない方が良かったのか? それは分からない。800人‥‥‥。 やっぱり独り勝ちなんだよねえ。 患者だけでなく、医師やナースも殺到しているんだろうなあ。 専攻医の浪人が3人も‥‥‥信じられない。 あの救急科だっていっぱいスタッフが居た。 うちとは大違いだ。 なにを間違えたんだろう? 考えないといけないことが多すぎる。 その後は素晴らしい屋上のガーデンを拝見して、失礼してきた。 あ、紗奈たちのダンスは次回にしよう。 今日は頭がいっぱいだった。 きっと家族全員が同じ気持ちだったと思う。 資本だけの問題じゃない。 スタッフ同士が、なんであんなに仲良しなんだろう? そういう敗北感を、いやというほど味わってしまった。 出稼ぎOK? なんて自由なんだろう? 本当にうらやましかった。

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