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第24話 友谷君

 翌朝、早速アンケート用紙をあちこちに配って、 書いてくれるようお願いして回った。 もちろん無記名だ。 「どんな文句でも書いていいからね」と皆に伝えた。 そうだ。俺は今、文句のシャワーを浴びたいんだ。 そして全部受け止めると決めていた。 そこへ「面会の方が見えています」と電話が入った。 迎えに行くと、フレッシュな若い青年が立っていた。 早速、院長室に来てもらった。 「初めまして。菜の花フーズの友谷涼と申します。 浅田社長から派遣されました」 「え、そうなの? うれしい! もう感謝しかないよ。よろしくお願いします。 佐久間病院の院長、立花陽一です。 妻の方の養子になったので、 苗字が佐久間から立花に変わりました」 「あ、そうなんですね。 実は正直に申し上げますと、 社長から頼まれたものの、 どこをどうしていいか分からなくて……。 先にご希望を聞かせていただけますか? あの、病院の食堂って行ったことがないので、 どんなものか分からないんです。 すみません、こんなことで」 かわいいなあ、と思った。 若い。まっすぐで、そのまんまだ。 「一言で言うと、食堂で出すものを、 全部美味しくしてほしいんです。 それだけなんです」 「はあ、そうですか。では一度見せていただけますか?」 「はい、じゃあ行きましょう」 食堂に連れていくと、 友谷くんはきょろきょろと見回していた。 「あ、院長、お疲れ様です」 声を掛けてきたのは、食堂の係長・安藤さんだ。 「紹介しますね。こちらが食堂の係長の安藤さん。 そしてこちらが菜の花フーズの友谷さん。 美味しいメニューを開発しに来てくれました」 はあ? という顔をして、途端に表情が曇った。 「友谷です。どうぞよろしくお願いします」 「あ、どうも」 これは最初から前途多難だ。 ここから攻略しないといけないかもしれない。 「何か食べてみますか?」 「そうですね。何か作っているものがあれば、 試食させていただけますか?」 「はい、分かりました。 安藤さん、いろいろ試食したいそうなので、 自由にさせてあげてください」 「はい、どうぞ。どこでもいいですよ」 「じゃあ、中に入りましょうか?」 ここは俺も一緒に行かないと、 自由にはさせてもらえなさそうだ。 二人で厨房に入った。 友谷くんはスプーンと小皿を借り、 片っ端から味見をしていく。 それから調味料を一つずつ確かめていた。 一通り終わると、 「はい、分かりました。 ありがとうございました。 院長室でお話ししてもいいですか?」 「はい、では行きましょう」 院長室のソファに座ってもらった。 「すみませんが、 仕入れの帳簿を見せていただけないでしょうか?」 「あ、はい。いいですよ」 帳簿を出して見てもらった。 何かおかしいのだろうか? 友谷くんは20分ほど、帳簿を見ながら携帯で計算していた。 「はい、分かりました。それでお願いがあります」 「はい、何でしょうか?」 「僕は料理を作ることに専念しますので、 院長先生はひたすら仕入れと在庫を調べていただけないでしょうか? 僕の勘だと、出汁の味がおかしいです。 仕入れでは高級な素材を使っているはずなのに、味は最下級です。 だから美味しくないんです。 今見ただけでも、醤油はひどいです。 帳簿では良いものを仕入れているはずなのに、 在庫には最下級のものしかありませんでした。 これは恐らく不正があると思います。 でも証拠を固めないといけないので、 それは院長先生にお願いしたいです。 監視カメラは付いていますか? なければ付けてほしいです。 特に早朝や深夜ですね。 これからは二人三脚でやっていただけないでしょうか?」 ガーンと金づちで頭を叩かれたようなショックだった。 手足が震えた。恥ずかしい‥‥‥。 「はい、分かりました。 これは私の責任です。 徹底して取り組みます。 どうかよろしくお願いします」 一番反省すべきは俺だ。 菜の花の北原院長へは、 友谷君を派遣してもらった事と、 俺も厨房に入って奮闘していること、 報告とお礼だけ、メールしておいた。 結果が恥ずかしいものになるだろうけどしょうがない。 今までのつけが回ったな。 とにかく、本当にありがたいよ。

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