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第29話 久しぶりの団欒
「先生、今日は夕飯に帰れたんだね」
帰宅した途端、颯太が抱きついてきた。
この一週間は、ほとんど家で夕飯を一緒に食べられなかった。
かわいい。ぎゅっと抱きしめる。
「うん、今まで遅くなってごめんね。
ちょっと病院が大変だったんよ」
「ふっ。いいよ。だって明日から葉山に行くんでしょう?」
「そうだよ。ゆっくりしよう」
「じゃあ、母屋にご飯に行こうよ」
着替えてから手をつないで母屋に向かった。
「おお、珍しく帰ってきたな。お疲れ様」
父が迎えてくれた。大サービスだ。
「兄さん、お帰り。お疲れ様」
淳一も楓も笑顔で迎えてくれる。
これも、うまくなった食堂のおかげだな。
「兄さん、社員食堂がめちゃめちゃ美味しくなったね~」と楓。
「だろう? みんな満足してくれた?」
珍しく、三人ともパチパチと拍手をくれた。
なぜか知らないはずの颯太まで拍手している。
「颯太も今週はずっと寂しかったんだよね~」と楓。
「うん。でも先生ももっと寂しかったと思うから、言わないでぇ......」
颯太の愛にあふれた一言で、全員ノックアウト。
みんなガクッとうなだれていた。
笑ってしまう。
颯太がいじらしくてたまらない。
横の颯太と視線が絡んだまま離れない。
もう……自分を持て余す。
テーブルの下で手をぎゅっと握ると、颯太も握り返した。
足をぴたりとくっつけてくる。
颯太も、ちょっと照れて頬がゆるんでいた。
「颯太も病院の食堂で食べてみる?
すごくおいしいよ」と楓。
「へえ~そうなんだ。行きたい!」
「じゃあ、学校が早く終わったらランチにおいで」と俺。
「うん、行く!」
「うちの食事がいつも美味しいからさ。
それに比べると食堂が最悪だったから、
腕のせいだとずっと思ってたけど、
材料のせいだったんだね。
疑いをかけたスタッフに、
本当に申し訳なかったんだよね……。
菜の花フーズの材料を入れたら、
全然味が変わるんだもんね。
菜の花弁当がうまい理由もわかったよ」
「ああ、そうなんだな。
俺もああいうもんだと思ってたよ」と父。
みんなが真剣に俺の話を聞いてくれる。
「どうだ? 入院食の方もやってみるか?」と父。
「うん、友谷くんに頼んだよ。
フーズには入院食に特化した業務用のおかずがあるんだって。
それも相当、研究員が研究したらしいよ」
「へえ~、それで美味しくなれば佐久間病院も安泰だよ」
淳一が調子のいいことを言っていた。
「淳一も少しは入院食を食べてみてくれよ」
鍛えてやる。
「ええ? やだよ。勘弁してよ」
経営者側がそんなこと言うか。
……でも文句は言えない。
俺だって食べたことがない。
我ながら最低だな。
夕飯を終えて我が家に帰ってきた。
「ねえ、先生、一緒にお風呂に入ってくれるの?」
つぶらな瞳で見つめられた。
「うん、決まってるでしょう」
すぐ湯を張った。
「颯太、今夜はベタベタにしちゃうよ」
くすくす笑いながら抱きついてくる。
「うん、そうして」
「颯太、ごめんね。今週はすごく寂しい思いをさせちゃったねぇ……」
さらに腕に力を入れて抱きしめた。
「うん、大丈夫。お父さんから毎晩、院長室で
夜遅くまで仕事してるって聞いてたから、分かってたよ」
もう、かわいすぎて無理。
唇をいっぱい重ねると、
颯太の吐息が熱くなってきた。
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