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第31話 葉山へ

 翌朝、早起きして葉山へ向かった。 車の中でもずっと颯太と手をつないでいた。 時々ぎゅっと握り返してくる。 そのたびに見つめると、颯太は微笑んでいた。 好きってことかな? 夕べ抱いたばかりの今日じゃ、まだ艶っぽい。 本人は分かってないみたいだから、まあいいか。 SPが「最初はどこに行かれますか?」と聞いてきた。 「じゃあ、葉山のしおさい公園にしようかな」 「はい、承知しました」 「先生、潮騒公園ってどんなとこなの?」 「うーん、魚の博物館なんだけど、 昭和天皇が採取された標本とか、 あとは剥製や写真だね。 水族館じゃないけど、静かで落ち着くよ」 「へえ〜そうなんだ」 「公園の散策道もあるし、 一色海岸のそばだから、 颯太も楽しめると思うよ」 「うん、楽しみ」 車に揺られること約1時間半。 「颯太、着いたよ」 少しウトウトしていた颯太が、ぱっと目を開けた。 「え? 着いた?」 まるで子どもみたいで、思わず笑ってしまった。 「SPさん、ここで1時間くらいの予定です」 「はい、承知しました」 公園の入り口で料金を払い、手をつないで歩く。 すぐ左手に博物館がある。 「颯太、ここだよ」 「え、そうなんだ。あ、ここ“お車寄せ”だって」 案内板を読んでいる。 「そう。御用邸から移築したんだって」 館内に入ると、颯太は興味深そうに展示を見ていた。 小学生向けのような内容だけど、 遊びに来た経験が少ない颯太には新鮮なのかもしれない。 「へえ〜すごいね。大きなカニだね」 「これ旨いのかな?」とつい言ってしまい、 「えー?」と颯太にひんしゅくを買った。(笑) 六角の東屋で少し休んだが、すぐに出た。 ここは静かすぎる。 「SPさん、次は一色海岸にお願いします」 「はい、承知しました」 「今度は浜辺に降りられるの?」 「うん、行けるよ」 タオルを忘れずにボディバッグへ。 公営駐車場に車を停めてもらった。 「あー海岸だ! 海って青いんだね!」 颯太が思いっきり笑顔になった。 「颯太、靴脱いでビーチサンダルに履き替えるよ」 「はーい」 折り畳み椅子を2つ、ドリンクも肩に下げて砂浜へ。 「うわ〜広いね。海って楽しいんだね」 「颯太は泳げるの?」 「ううん、無理」 「じゃあ、波にさらわれないようにしてね」 「え?」 「でも今日は穏やかだから大丈夫だよ」 颯太が慌てて俺の手をつないできた。 そのつもりじゃなかったけど……にんまりしてしまう。 初めて海に足を浸ける颯太。 「颯太、ちょっとだけ海水を舐めてみたら?」 素直に指先を舐めて、顔をしかめた。 「しょっぱ〜い!」 「海水の実感が湧いた?」 「うん、分かった」 しばらく椅子に座り、ドリンクを飲みながら二人でぼーっと海を眺めた。 「颯太、初めての海はどう?」 「うん。すごく気持ちいいけど……たまに来ればいいかな?」 あれ?(笑) 「そう? じゃあ今度は箱根に行こうか。温泉がいいぞ〜」 「うん、そうする」 車に戻り、ペットボトルの水で砂を落としてから乗り込んだ。 「SPさん、次はホテルでお願いします」 「はい、承知しました」 「先生、もうホテルに行くの?」 「うん。マリーナがすごくいい景色だよ」 「じゃあ行きたい!」

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