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第35話 菜の花病院へ
葉山のホテルをチェックアウトしたら、
その日はどこにも寄らずにまっすぐ帰った。
ただし土産のシラスだけは買った。
颯太は明日から大学に行くので、
その体力も養っておかないといけない。
それと、俺にも宿題があった。
みんなに書いてもらったアンケートを回収したものの、
全部を読んでいなかった。
これはヒンシュクものだよな。
だからエクセルでまとめて、
スタッフに答えや見通しを出さないといけない。
それをじっくり考えたかった。
実際に読んでみると、
いかに何も気が付いていなかったかが分かる。
俺は本当に何をしているんだろう。
落ち込む。
菜の花ではどうしているんだろう?
そうだ、閃いた。
北原院長に聞いてみればいいんだ。
一度ゆっくり話を聞かせてほしい。
聞いてみようかな?
そうだ、仕事を抜け出して菜の花に行き、少し意見を聞いてみよう。
そこで、
「いろいろ相談したいことがあるので、少し時間をいただけますか?」
とお願いのメールを送った。
そして院長に聞きたいことをリストにした。
すると10分ほどで返事が来た。
「明日いらっしゃいますか?
よろしければ、13時30分から時間を空けておきます」
ありがたい。
*
翌日13時30分、菜の花総合病院の院長室にお邪魔した。
「お忙しいところ申し訳ないです」
「いえいえ、いらしていただいて嬉しいですよ。
実は私もいろいろお話ししたかったんです」
「え? 本当ですか?」
「はい、本当です。俺はお世辞は言えないタイプなんで、信用してください」
笑顔で優しいことを言ってくれた。
「実は友谷君が来る前に、スタッフにアンケートを書いてもらったんですよ。
内容はすべて惨憺たるものでした。
一番は、社員食堂や入院用の食事が酷いということだったんです。
実は、友谷君のお陰で重大なことが分かったんです。
食堂の係長が食材や調味料をごまかして着服し、
最下級の材料で作らせていたんですよ。
恥ずかしながら、ずっと気が付かずに、
まずいのはうちのスタッフの料理が下手だからだと
思い込んでいました。ものすごく反省しています。
それで係長は懲戒解雇にしました。
友谷君が菜の花の素晴らしい食材や調味料を入れてくれたら、
数段味がUPして、美味しくなったんですよ。
これも菜の花のお弁当を食べて分かったことなんです。
本当に心から感謝いたします」
「そうだったんですか。それは大変でしたねえ。
でも分かって良かったですね」
「はい、ありがとうございます。
それでですね、ご相談というのは——
理事の立場にいると気が付けないことが、
沢山あるということなんです。
どうすればいいのでしょうか?
陰で行われているであろう、もろもろのことを
どうやって知ることが出来るのでしょうか?
こちらのスタッフの方は、すごく皆さん仲良しですよね?
何か理由があるのでしょうか?
それを教えていただきたいんですよ」
「ああ……そうですね。
うちの掲示板にチャットがあるのですが、それがすごいんですよ。
ちょっとした変化やニュースがあると、
5分以内に院内の全員が知っていますからね」
「え? 仕事中に皆が見るんですか?」
「ハハハ、そうですよね。
多分、見るタイミングがうまいんでしょうねえ」
と彼は笑っていた。
掲示板か……え?
「あの、掲示板って個人のスマホですか?」
「いいえ、うちはお掃除スタッフも含めて全員がタブレットを持っているので、
そこに掲示板もあるし、チャットもあるんですよ。
だから誰でもニックネームで好きなことを書き込んでいるんです」
「は? 掃除スタッフまでタブレットですか?」
「はい、そうです」
唖然とした、俺が遅れてるのか?
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