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第36話 菜の花の衝撃・タブレット
掲示板からチャットの話を聞き、
最後に「お掃除スタッフまで全員タブレットを持っている」と聞いたとき、
まずはそこから始めないといけないんだと思った。
そもそも、なぜお掃除の人が、
タブレットを全員持っているのか?
その理由を聞いた瞬間、
菜の花の“秘密”が分かった気がした。
——情報の共有なんだ。
うちの病院は祖父の代から続いているから、
正直体制が古いし頭が固い。
菜の花は何のしがらみもなく、
一から自由に作った病院。
でも羨んでもしょうがない。
お掃除の人がどうタブレットを使っているのか知りたくて、
院長に聞いたら、
「管理課の山野課長に助けてもらってください」と言われた。
そこで山野課長に、
タブレットを持つ理由と使い方を教えてもらい、
実際に現場で使っている様子も見せてもらった。
——やり方が恐ろしく進んでいた。
そして気持ちがいいくらいに自由だった。
佐久間病院に戻って考え込んだ。
チャットを全員にやってもらうには、
タブレットを支給しないといけない。
一人残らずだ。
何より、お掃除の人たちが明るくて、
自分のペースで働けるやり方は自由で素晴らしい。
だから誰も辞めないんだな。
うちの掃除スタッフは入れ替わりが激しい。
原因があるはずだ。
どうしたものだろうか?
例えば、全員にタブレットを支給したとしよう。
お掃除スタッフにはまず使い方を教えないといけない。
これはナースにも説明が必要だ。
掃除スタッフの次はナースだ。
どんどん菜の花流のやり方に変えていってほしい。
タブレットを教える人と、
あちこちで使えているかどうかをチェックする人が必要だ。
そのためには、掃除スタッフのリーダーになれる人を
決めていかないといけないだろう。
——菜の花から派遣して教えてもらえないだろうか?
菜の花から出張して、改善点やタブレットの使い方、
掃除のシステムを教えてもらえないか?
よし、まず全員にタブレットを支給することを、
理事と相談してみよう。
「理事、うちのスタッフ全員に、
タブレットを支給したいんだけど、いいですか?」
「は? なんで?」
「革命を起こしたいんですよ。
特にお掃除スタッフが定着するように、
やり方を変えていきたいんです。
要は菜の花のお掃除スタッフのやり方を学ぼうと思っています」
「ふ〜ん。菜の花ってお掃除スタッフの定着率がいいの?」
「そうなんですよ。向こうは強制がない。
チェックされない。怒られない。
みんなで助け合って、定時に帰るやり方だそうです。
一人だけ残業になったら全員の責任だそうですよ。
これはナース達も同じだそうです」
「はは、なんじゃそれ? あり得ないだろ」
「あり得るのが菜の花なんですよ。
だから誰も辞めないんです」
「ふ〜ん……どうしようかな。
具体的にどうしたいの?」
「最初にお掃除スタッフから変えようと思っています。
菜の花からトレーナーを派遣してもらえるように、
お願いするつもりです。もちろん有料で」
「へえ〜、やけに張り切ってるな」
「父さん、うちは祖父の代からやってるから、
やり方が旧式で時代に合ってないんですよ。
そこが問題なんです。
だからいつも人手不足じゃないですか?
救急科だっていつも人が足りない。
反省するべきなんですよ、経営側が」
父が自嘲気味に笑った。
「はいはい、分かったよ。
好きなようにやってくれ。
タブレットを支給するなら、
最後まで責任を持ってやってくれよ」
そして北原院長にメールした。
「タブレットをうちも全員導入したいので、メーカーを紹介してほしい。
そして菜の花のお掃除スタッフでリーダー格の方を、
トレーナーとして派遣してもらえないでしょうか? 有料でお願いします」
返事はすぐ来た。
「とうとうやるんですね? 承知しました。
トレーナーはそちらの準備が整い次第、派遣いたします。
1名分の人件費と交通費と食事代をお願いします。健闘を祈ります。北原」
——やさしいねえ。本当に感動するよ。
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