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第38話 夕食にて
その晩はやや遅くなって帰宅した。
ダイニングに行くと、皆が揃っていた。
「先生、お帰りなさい」
颯太が笑顔で迎えてくれた。
「どうだ? 掃除のスタッフはちゃんと帰れてるのか?」
父から聞かれた。よく言うよ。
「まあね、ばっちりだよ。俺が見張ってるからさ」
「掃除スタッフをつついて、なんか良いことでもあるの?」
と、無自覚な淳一。
「そういうこと言ってるから、みんな辞めるんだよ。
淳一ならどう止められるんだ?」
楓が淳一の袖を引っ張っていた。ふっ。
「いや〜俺なら無理かなあ?」
急に体勢を変える淳一。
「分かってればいいよ」
冷たく言ってやった。
「インカムを入れるって、ナースの方は導入しないのか?」と父。
「いや、いずれ入れるさ。
最初に掃除スタッフが使って便利そうだったら、
ナースが焦るだろう? それが狙い」
「は? ナースを焦らせてなんかいい事でもあるの?」と楓。
「自分より下だと思っていたスタッフたちが、
先に良い物を便利に使ってれば、考えが変わるさ」
「ふ〜ん、よくわかんない」
楓は首をかしげた。
医者に分かるわけないだろう?
……って俺も医者だけど、そう思った。
これで順番を逆にしたら、
掃除スタッフがかわいそうなことになる。
その順番はやめたいんだ。
それより、女性の力を借りたいんだけど、
院内に適当な人がいないんだよなあ。
これが問題だ。
「先生、なんか考え事をしながら食べてるの?」
颯太に聞かれた。少し笑った。
ふっと気が抜けた。
今の俺はどんな顔をしていたのかな?
皆の注目が俺に集まった。
「俺は院内でもっと女性たちの力を借りたいんだよね。
誰かいい人材知らない?」
皆、首をかしげていた。
「一人だけいるじゃないか?」と父。
「誰?」
「親御さんの介護で辞めた人がいるだろう?」
「あ、看護主任の加護さんでしょう?」と楓。
「むふふふ、すぐ分かったか?」
父も認めている人か。
「分かるわよ〜。だって女傑だったじゃない?」
楓も認める女傑か……頼もしい。
「うん、いいね。明日連絡を取ってみるよ」
夕食を終えると俺達の家に戻った。
「先生、なにか悩んでるの?」
ふ、颯太が心配していくれていた。
「ふ、そう見える?」
「うん、食べながらずっと考え事をしていたでしょう?」
やさしい眼差しで俺を見つめてくれた。
「うん、そうだね。良くないよね?」
「じゃあ、ちょっとだけ、ここに横になって」
ソファに座って呼んでくれた。
膝をポンポンと叩いて頭を乗せて欲しいらしい。
それだけで頬が緩む。
横になって颯太のに膝の上に頭を乗せた。
颯太の匂いをいっぱい嗅いだ。
落ち着く。
「いい子いい子」と言いながら頭を撫でてくれる。
俺の気が沈むとやってくれる。
それだけでうれしい。
「颯太、最近一緒に居る時間が少ないね。ごめんね」
「良いよ、夜は一緒に寝られるから大丈夫」
「うん、ありがとうね。しばらく続くかもしれないけど、
軌道に乗れば落ち着くから、もうちょっと待っててね」
「うん、何も心配してない。俺、先生の事愛してるから」
「颯太、俺も愛してるよ。今夜もずっとくっついて寝ようか?」
「そうしてほしいけど、先生が寝がえり出来ないかもよ」
「じゃあ、一緒に寝返りしよう」
二人でクスクス笑った。
*
翌日、早速電話してみた。
「あらまあ、どうしたんですか? 院長、お元気ですか?」
「うん、元気だよ。親御さんはどうなの?」
「ああ……実は亡くなりました。今はぼんやりしています」
「そうなんだ、大変だったね。
実はさ、至急病院に戻ってくれないか?
頼みたいことがあるんだよ」
「え? 何事ですか? なんかあったんですか?」
「今ね、病院の改革を進めてるんだけど、
どうしても女性の力が必要なんだよ」
「え、 私でいいんですか?」
「これね、家族の推薦だよ。おもしろいでしょう?」
「うわ〜光栄ですねえ。では伺いましょうか?」
「うん、いいポストを用意しておくからさ。
いつだったら来れるの? 寮を用意しようか?」
「はい、ぜひお願いします。助かりますよ」
それで、こちらが寮を用意でき次第、
また連絡をすることになった。
ああ〜うれしい。
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