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第39話 業務改善室の加護由紀子室長
翌日には、総務が寮になる部屋を探してくれた。
場所が青山だから高いが、しょうがない。
でも 2LDK のこぎれいなマンションだそうだから、十分だろう。
そして人事を発表した。
まず新しい部署を作った。
「業務改善室」 だ。
そして室長として、<加護由紀子さん>の名前を出した。
これは院内でかなりインパクトがあったようだ。
辞めて消えた人、と思われていたらしい。
今日、寮を決めたと連絡したら、
「もうあさってには入ります」とのこと。
え? 早い。
なんでこんなに早く支度ができたんだろう。
身の回りの物だけ持って来るのかな?
いや、それはいいとして、業務改善室は院長室の隣だ。
書庫にしていたから狭いけど、まあいい。
ネームプレートも作った。
ロッカー、ハンガー、机、いす、
ソファ、パソコンも入れてもらった。
ドアの外に貼るプレートも総務が用意済みだ。
*
そして待望の翌々日。
「夕方には顔を出します」とのことだった。
ワクワクソワソワだな。
ネームも書類も用意してあるから、真っ先に来てくれるはず。
掲示板のチャットを眺めていた。
「女傑現る!」
……誰だよ、これ書いたの。笑った。
うん? 総務か?
もう下に来たってことか?
と思ったら、5分ほどしてやってきた。
「こんにちは。お待たせしました」
「よく来たねえ。元気そうだ」
思わず握手をした。救いの神だよ。
「ええ? こんなに歓迎を受けていいんでしょうか?
もう寮がすごいんだもの。いいんですか?
あそこ、めちゃめちゃ高いでしょう?」
「俺の力の入れ方が分かった?」
クスクス笑っていた。
「あとがこわ~い」
「はい、契約書とネームね。書いてね」
契約書を見ていた。
「えーー? 年収980万? ウソでしょう? あり得ない!」
「あり得るの」
「いやあ~こわいわ~。何させられるのかなあ?」
「いいから早く書いて。もう人事の発表したから」
「え、 もうですか?」
「うん、期待度100%だからね。
それでさ、菜の花総合病院って知ってる?」
「ははーあん、もう読めた」
「なに?」
「菜の花病院みたいにしたいってことでしょう?」
「さすがだねえ。知ってんだ」
「知ってますよ。インスタ見てますもん。
でもちょっと道のりがねえ~。時間かかりますよね?」
「いや、俺は待てないの。うちの食堂を見てよ。
すごくうまくなったんだから」
「え? そうなんですか。どうやって?」
「菜の花の北原院長にお願いして、
菜の花フーズからすごい人を送ってもらってさ。
今は入院食の厨房に入ってもらってる」
「へえ~信じられない。食堂の係長はどうしたんですか?」
「懲戒解雇にした」
「……なるほどね。だから実現したんだ」
「え? 知ってたの?」
「いや~証拠を見たわけじゃないけど、マズ過ぎましたよね?
家庭で普通に作っても、あんなにまずいのは作れないですよ」
「なんで今まで言わなかったの?」
「だって専門外ですもん。私のただの個人的感想だから言えないですよ」
「だからね。今度から、おかしいと思ったら言ってほしい。
だから来てもらったんですよ。
当面、入院食の厨房に入って見学するといいよ。
菜の花フーズの友谷君っていう、すごく若い青年だよ。
ぴか一の舌を持ってて、一発で不正を見破ったんだ」
「へえ~それはぜひ会いたいですね」
「それでね、制服はこの紺のスーツね。
菜の花の専属のスタイリストを紹介してもらってさ、
エリナさんっていうんだよ。
その人に写真を送って選んでもらったんだ。
エプロンも選んどいた」
「菜の花って専属のスタイリストがいるんですか?」
「そうなんだよ。俺も向こうの副院長とか、
看護部長の紺のスーツが、やけに決まってるんだよ。
なんでかなあと思って聞いたんだよ。そしたら秘密兵器がいたんだよ」
「ああ~なるほどね。だからインスタの写真が凄いわけだ。徹底していますね?」
「だろう?だから加護さんに負けて欲しくなくてさ」
「ええ?そんなところで張り合わないでくださいよ。
でも待遇がすごい。ありがとうございます。うれしいです」
くすくす笑っていた。
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