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第43話 羽田へ見送りに
今朝は颯太に起こされた。
昨日の結婚式の余韻で、なんとなく身体が重い。
でも颯太はけろりとして元気。珍しい。
今日は颯太と羽田に行かなければならない。
父が「佐久間家を代表して見送りに行ってこい」と言うからだ。
今どき修学旅行でもないのに、家族の見送りって必要か?
淳一も楓も昨夜はホテル泊まり。
今日はイタリアに出発するから、そわそわしているだろう。
羽田に着いた。
イタリア直行便だから楽でいい。
出発ロビーに行くと、淳一たちがすでにいた。
友則さんと紀子さんが俺たちを見つけて立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「あ、義兄さん。昨日は本当にありがとうございました。
それに、切符までプレゼントしてくださって……本当に感謝しています」
紀子さんも嬉しそうに、にこにこしている。
淳一も楓も、晴れやかな表情だった。
「いやいや、大げさなことじゃないよ。楽しんできてね」
そこへ──あれ?
上川秘書がいる。
なんで?
颯太と何やら話し込んでいる。
嫌な予感しかしない。
アナウンスが流れ、搭乗手続きが始まった。
俺は少し下がって、後ろから見送るつもりだった。
ファーストクラスの入り口から、二組が入っていく。
俺も軽く手を振った。
すると颯太が、俺の手をぎゅっと握った。
え、ここで?
ちょっと恥ずかしい。
……ん?
なんだか颯太が俺の手を引っ張る。
「え? 何してるの?」
颯太は何も言わず、ニヤニヤしながらさらに引っ張る。
「ちょっと、待てって」
「先生。俺たちも行くよ。
新婚旅行に行きたくなっちゃった!」
「だからってやめろよ。今度行くからさ、ね?」
そこへ上川秘書が近づいてきて、満面の笑みで言った。
「颯太様のサプライズですって!」
「は?」
「もう先生の荷物は預けてありますから、大丈夫ですよ。さあ、どうぞ」と上川秘書。
「なんでだよ?」
どんどん颯太に引っ張られて、
ファーストクラス専用チェックインに入ってしまった!
「先生、こっちこっち」
颯太がどんどん手を引っ張る。
「ちょ、待てって……!」
そしてそのまま
優先レーンに吸い込まれていった。
「颯太、どういうこと?」
「俺たちもイタリアに新婚旅行に行くの。
ちゃんとお父さんにも許可をもらってるから大丈夫なの」
「ええ? まさか、それはないだろ」
「あるの」
颯太は当然のように言う。
今、急に乗れと言われても、俺は手ぶらだ。
携帯と財布しか持ってない。
「颯太、俺のパスポートは?」
「もう〜、先生のパスポートは俺が持ってるの。
大丈夫だから、早く席について」
「荷物は?」
「俺が全部作って、上川さんに渡して、空港に送ってもらったの」
「え? だって俺、お金持ってないぞ」
「大丈夫。上川さんがチップ用にユーロをいっぱいくれたから。
あとは全部カードで払えばいいの」
「はあ……何が起こってるんだ?」
気づけば俺は颯太に押されて、ファーストクラスの席に座っていた。
一番前が淳一夫婦。
その次が楓夫婦。
それから俺と颯太だ。
みんなが俺を振り返っては、ニヤニヤしている。
「あ! お前たちも共犯か?」
ぷっと全員が笑った。
くそ……!
「ちょっと兄さん、人聞きが悪いなあ。
颯太のサプライズなんだから、いいじゃん」
と淳一。
「そうよ、かわいいでしょう?
颯太が一緒に行きたくなっちゃったんだって」
と楓。
「先生、もうあきらめて。
だって俺たち、まだ新婚旅行に行ってないんだから。いいでしょ?」
と颯太。
ああ〜もう……
突然の事態に、俺は顔を手で覆ってしまった。
病院の仕事、まだ山ほど残ってるんだぞ。
誰にも何も言ってきていない。
どうしよう?
加護さんは知ってるのか?
そうだ、メールしよう。
携帯を見ると、先に加護さんからメールが来ていた。
「新婚旅行を楽しんできてくださいね。
仕事は私と理事がやっておきますから。
行ってらっしゃ〜い」
ああ……万事休す......。
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