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第45話 ローマにて・Palazzo Aurelia
イタリアのフィウミチーノ空港に降りて、
まだデッキの中を歩いているんだけど、なんとなく空気が乾いている。
「颯太、空気が全然違うな」
「だねえ、なんか乾燥してるのかな?」
楓や淳一たちも、きょろきょろしっぱなしだ。
俺と颯太も同じだよ。
18時のローマはまだ明るく、黄金色の光が建物の中まで差し込んでいた。
到着ゲートを抜けると、黒いスーツの男性が三名、静かに一歩前へ出た。
「あれ?俺たちを待ってたのかな?」
俺は颯太と手を繋いでいた。
「そうみたいだよ」と颯太。
「立花様でいらっしゃいますね。私は本日のアテンド、アレッサンドロと申します。
こちらが警護担当のロレンツォ、そして運転を務めるマルコです。もう一名の警護、ステファノは車両の準備をしております。滞在中は私ども四名が常にご一緒いたします」
上川秘書の手配らしく、日本語で無駄のない紹介だった。
「ありがとうございます。お世話になります」
颯太が「すげぇ…映画みたい」と小声で呟き、
俺は軽く頷くだけで歩き出す。
案内されて外に出ると、黒い防弾仕様のSクラスの後部座席に俺と颯太が並び、前席にはSP二名。
後続車にはアテンドとマルコ、それに楓や淳一夫婦の計六名が乗った。
いよいよ始まるね。
紀子さんと楓は、もう携帯で写真を撮りまくっていた。
飛行機の中でも逐一撮っていたらしく、全部お母さんに送っているそうだ。
三上母が興奮しっぱなしらしい。面白い。
車が静かに出発すると、やがてローマの街並みが流れ始める。
もうここは映画の世界だよ。
とても現実だとは思えなかった。
そして、車窓の景色に目を奪われている間に、70分くらい乗ったのかな?
素敵なホテルに着いた。
そこはローマでも一番の五つ星ホテルだそうだ。
<パラッツォ・アウレリア>に入ると、もう映画の世界だった。
何もかもが美しい。
白い壁も、素敵な色の家具たちも。
ライトアップされた窓からの景色もきれいだけど、
夕暮れの中庭がまるで絵画のように広がっていた。
いろんな形のテーブルランプも、なんて美しいんだろう。
まるで夢の国だよ。こんなホテル見たことがない。
ソファがいろんな色と形なのに、不思議と統一感があってきれいなんだよね。
もう楓も紀子さんも見惚れるばかりで、写真を撮るのを忘れていた。
「ここ…本当にホテル?」と楓が息を呑む。
淳一も友則さんも見回していた。
「陽一兄さん、こんな五つ星の高級ホテルにしていただいて良いんですか?
素晴らしすぎて言葉が出ません」
と友則さん。
「兄さん、いいの?こんな豪華なホテルにしちゃって……」と淳一。
「私、もう帰りたくない!」と楓。
思わず笑ってしまった。
「そうだね、喜んでくれたなら良かったよ。
みんなは新婚旅行だから、スイートが取ってあるそうだよ。
さっき上川秘書からメールが来た」
「ええ〜スイートですか?」と紀子さんが驚き、
淳一と笑顔で手を握り合っていた。
アテンドにパスポートをまとめて預けているので、フロントでのチェックインはすぐに済んだ。
俺はサインしただけで手続きが終わり、各自スイートへ案内された。
ああ〜楽勝すぎる。
「先生、アテンドがいるって楽だねえ〜」と颯太が小さな声で囁いた。
各自、案内のスタッフに連れられて部屋まで行った。
荷物は後ろからポーターが台車に乗せて運んでくれた。
部屋のドアを開けると、「こちらが最高のスイートでございます」
ああ〜、言葉がない。
ホテルに入った時もすごかったけど、
このスイートルームは白とベージュを基調にした静謐な空間。
天井の高さ、テラスから見えるローマの屋根。
家具はどれも彫刻のように美しく、まるで“住める美術館”だった。
グリーンを基調にしたインテリアが美しすぎて、また言葉を失った。
もう夢に出てくるわ。
バルコニーもライトアップされていて、テーブルや椅子があるのが見える。
「先生、なんだかすごすぎて椅子に座れないよ」
颯太が言うから、ちょっと笑った。
「だってさ、これみんな颯太が払ってくれたものなんだよ」
「えへへへ、そうなんだけどさ。実感ないもん」
少し休んだあと、19時45分。
アレッサンドロが部屋前に現れ、丁寧に一礼する。
「本日はホテル内のレストランにてご夕食をご用意しております。
SPは周囲で待機いたしますので、ご安心ください」
中庭に面したテラス席は、夜風が心地よく、キャンドルの灯りが揺れていた。
皆も集まっていた。
俺はワインリストを見ても分からないんだよね。
「友則さん、なんかお奨めのワインはありますか?」
人に振った。(笑)
「じゃあ、選んでいいですか?」
そう言って、何やらソムリエと相談しながら決めていた。
颯太は前菜の彩りに目を輝かせ、楓は静かに景色を楽しんでいる。
ローマ初日の夜は、緊張よりも“美しさ”が勝っていた。
美味しい食事の後、
「明日の午前は自由にしようよ。
朝食もどこで食べてもいいし、ルームサービスでもいいからね。
散歩もローマ市内に行くといいよ。
ホテルのロビーに12時に集合ね。
お昼は三つ星のイタリア料理のフルコースにするから、程々お腹を空かせておいてよ」
上川秘書のメール通りに俺が伝えた。
「はーい!」と一斉に返事が返ってきた。
食後は解散だ。
部屋に戻ると、ターンダウンされたベッドが柔らかく迎えてくれる。
カーテンはすべて閉めてあって、ベッドは滑り込める状態。
クッションも外してあったし、足元にはスリッパもあった。
テーブルには、ナイトチョコやハーブティーが用意されていた。
「先生、なんだかすごいね。眠るのが勿体ないよ」と颯太。
「せっかくだから、バルコニーに持って行こうよ」
ふたりでナイトチョコとハーブティーを持って移動した。
「颯太、景色を見ようよ」
「うん、見たい」
ふたりでバルコニーの椅子に座った。
夜だけど、ローマの街の灯りが美しかった。
──明日からの七日間、きっと忘れられない旅になる。
バスルームも美しすぎて、これ大理石?
すべてが同じ模様のグレーの石に、白い洗面台やバスタブ。
そんなバスルームで颯太と入った。
この日はふたりともダウンだ。
颯太を胸に抱いて、静かに眠りについた。
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