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第48話 ベネツィアにて

 翌朝、ロビーに行くと、インテリアデザイナーの女性が待っていてくれた。 アテンドが紹介してくれる。 「こちらは、このホテルの契約デザイナー、クラウディア・ベネデッティさんです」 「初めまして。どうぞよろしくお願いします」 俺の日本語は通訳してもらいながら、握手を交わした。 柔らかな栗色の髪に親しみやすい笑顔。 40代くらいだろうか。とても素敵な女性だった。 「今回泊まったガーデンスイートが素晴らしくて、 緑を基調にした内装がすごく気に入りました。 いつか日本でも再現できたらうれしいと思っています」 「まあ、うれしいです」と彼女は目を輝かせた。 名刺を交換すると、クラウディアさんが尋ねてきた。 「いつ頃の計画になりそうですか?」 颯太に「2年後くらいと言ってもいいかな?」と聞くと、 「いいよ、好きにして」と、いつもの返事。 「まだ未定ですが、2年か3年後くらいだと思います」 「分かりました。日本の建築にはとても興味がありますし、 いつか日本で仕事をしたいと思っていました。 またご連絡ください。お待ちしています」 丁寧にお礼を言って別れた。 ロビーでは皆が待っていた。 「お待たせ。じゃあ行こう」 「兄さん、何を頼んでいたの?」と淳一。 「ホテルの部屋がすごく気に入ってね。 同じ内装にしてほしいんだよ」 「へえ〜、発想がすごいね。さすがだよ」 そう言われてしまった。 みんな、そんなに感動しないのかな。 俺は何もかも感動した。 特に、グリーンを基調にした柔らかなインテリアと、 窓から見えるガーデンがすごく良かった。 なんだか落ち着くというか、懐かしい気がした。 それに、照明のテーブルスタンドやフロアスタンドが、 どれも素敵で目が釘付けだった。 日本ではあんなデザイン、なかなか売っていない。 さて、ローマのホテルから車で出発した。 アテンドが言う。 「列車ではエグゼクティブクラスをご用意しています。 お荷物はこちらで運びますので、ご心配なく」 今日はローマのテルミニ駅から列車で、ベネツィアへ向かう。 「ねえ兄さん、私たちの荷物はどこにあるの?」と楓。 「SPが後部座席の方で見張ってるらしいよ」 「あらそうなの?申し訳ないわね......」 列車は半個室のようで、左右に1列ずつしか席がない。 しかも、もうドリンクサービスがあった。 まるで飛行機のファーストクラスだ。 車窓から見るイタリアの景色は素晴らしかった。 友則さんが窓の外を見ながら言う。 「あそこの丘はトスカーナ地方ですよ。 ワイン用のブドウ畑やオリーブ畑が続いていますね。 すごくイタリアらしい景色だなって思うんですよ」 みんな「へえ〜」と感心している。 どこも絵画のような景色だ。 それにしても、荷物を全く持たないで済む旅行というのは、 まるで王侯貴族のようだ。 多分、一生に一回の経験だろう。 ヨーロッパの富裕層はいつもこんな旅をしているんだろうけど、 俺からしたら、まるでアガサ・クリスティの世界だ。 そして乗ること3時間半、 ベネツィアのサンタ・ルチア駅に着いた。 アテンドが言う。 「駅を出ると、目の前から水上タクシーです」 駅を出た瞬間、本当に目の前が運河で、水上タクシーが待っていた。 「ではこちらへどうぞ」 案内されて船に乗る。 「あら?荷物は?」と紀子さんが心配するので、 「別便でホテルに持って行くらしいですよ」 「あら、そうなんですか?なんだか申し訳ないですね」と恐縮していた。 ベネツィアは“水の都”というけれど、 俺はなんだか落ち着かない。 水が苦手なのかもしれない。 やがてホテルの桟橋に着いた。 チェックインを済ませて、すぐ部屋に通される。 荷物を置いて、今度は徒歩5分でレストランに行くらしい。 運河沿いのレストランに着くと、アテンドが説明した。 「こちらでは約1時間でお食事が終わりますので、 その後ムラーノ島へ観光に向かいます。 18時にホテルへ戻り、19時に水上タクシーでレストランへ向かいます」 「はい、分かりました。ありがとう」 返事はしたものの、 みんな少し旅行疲れが出ているようだ。 颯太を見ると、なんだか眠そうだった。 やばい。これで食べたら完全に寝るな。 「颯太、大丈夫か?」 「うん、大丈夫」 「眠くなったらおんぶしてやろうか?」 颯太はウプッと笑った。

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