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第50話 友則サイド・フィレンツェで再会

今日はベネツィアから高速鉄道に乗り、フィレンツェに向かう。 三年間修業した工房のみんなと、ついに再会できる。 イタリアに来れただけでもうれしいのに、 夢のファーストクラスに乗せてくれたり、 豪華な五つ星ホテルや三つ星レストランまで連れて行ってくれた。 いくら新婚旅行とはいえ、感謝しかない。 本当に一生の思い出になった。 陽一兄さんや颯太兄さんには、一生頭が上がらないよ。 だんだんフィレンツェに近づくと思うと、 胸の奥が静かに熱くなるのを感じていた。 「緊張してる?」 楓が小声で聞いてきた。 「うん……少しだけ。でも、楽しみだな」 フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅に到着すると、 石畳の街が僕たちを迎えた。 宿泊予定のホテルに向かうと……凄すぎて言葉を失った。 フィレンツェで一番高級な5つ星ホテルだった。 え~?そんな贅沢をしてもいいのかなあ? 工房の仲間にはとても言えない。 僕の修業時代は小さな屋根裏部屋で、 パンとチーズをかじっていたのに……。 先にホテルに荷物を置いてから出かけるということで、 荷物を置いた後、家族でランチへ向かった。 Trattoria del Giglio は、小さいけれど有名な店だ。 温かい木の梁と白いクロスが落ち着いた雰囲気をつくっている。 ここではフィレンツェ名物の T ボーンステーキ、 ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナが有名だ。 早速この店に来たけど、きっとみんな驚くよ。 二人でも食べきれないくらいの大きさだ。 オーダーを陽一兄さんから頼まれた。 いろいろ料理を取って、このステーキは二つ頼んだ。 シェアすれば十分だよ。 まずはノンアルで乾杯だ。 ステーキが運ばれてくると、 颯太兄さんが「でかっ……!」と目を丸くし、 陽一兄さんが笑いながら取り分けてくれた。 僕は懐かしくて、並んだ料理を見つめていた。 「友則君、いっぱい食べて。懐かしいでしょう?」 陽一兄さんが言う。 「はい、昔よく食べました」 「かえちゃんも食べよう」あ、しまった......。 「ええー?」 皆の注目を浴びてしまった。 ああ……まだ隠そうと思っていたのに……。 「えへへへ、あのね、お互いを、 “かえちゃん”、“ともちゃん”って呼ぶことにしたの。よろしくね」 楓さんが皆に言ってくれたから、助かった。 皆がくすくす笑っているから本当に照れくさかった。 「ええ?私たちだって、ねえ〜?」と紀子。 淳一兄さんが笑いながら照れまくっていた。 「え?なんて呼んでるの?」僕が聞くと、 「淳ちゃんとのりちゃんなんだよねえ」と紀子。 うわあ〜と皆で大爆笑になった。 「いいなあ〜俺も呼び方変えようかな?」と颯太兄さん。 今度は陽一兄さんが照れまくった。 「もういいよ、その話はまた今度にしようよ」 両手で顔を隠していた。 すごい照れ屋なんだね。 残念、これで終了した。 午後、皆でアルノ川沿いを歩き、 サン・フレディアーノ地区へ向かった。 そこに、僕が三年間修業した工房── Bottega San Frediano──がある。 古い木の扉の前に立つと、 僕は一度深呼吸をした。 新妻がそっと手を握り、「大丈夫よ」と微笑む。 扉を押し開けると、 革の匂いと金槌の音が迎えてくれた。 最初に気づいたのは、 僕と同じ時期に働いていた仲間だった。 「……トモノリ?」 驚きの声が工房に響き、 次の瞬間、仲間が駆け寄って抱きしめた。 「お前、本当に来たのか!」 「元気だったか?」 イタリア語が飛び交い、 工房の空気が一気に温かくなる。 奥から親方が現れ、 腕を組んだままじっと僕を見つめた。 「トモノリ。立派になったな」 その一言に、僕の目が少し潤んだ。 「妻です。新婚旅行でこちらに来ました」 僕が新妻を紹介すると、 仲間たちは口々に祝福の言葉をかけた。 「兄妹同士で結婚したんだよ」と伝えると、 工房が一気に湧いた。 続いて家族全員を紹介すると、 親方は深く頷き、「いい家族だ」と静かに言ってくれた。 僕は日本から持ってきた、 上品な和菓子の詰め合わせを手渡した。 親方はすぐ開けて、皆も食べてくれた。 目を細め、 「日本の菓子もうまいよ。珍しいものをありがとう」 と笑った。 その後は皆で表に出て記念写真を撮った。 工房を後にすると、なんだか肩の荷が下りたようでホッとした。 「そうだ、皆さん、バッグや財布を買いたいでしょう? 良い所があるんですよ。行きますか?」 「行くーーー!」とかえちゃんが即答した。(笑) それで、トルナブオーニ通りに寄ることにした。 夕方の石畳は少し金色に見える。 通りに入ると、すぐにきれいな色のバッグが目立つ革の店があった。 「あ、その店は良いと思いますよ」と薦めると、 みんなが一斉に店に入った。 陽一兄さんも颯太兄さんも、 「買い占めるのか?」と思うくらい買いまくっていた。 店主も大喜びで、どんどん店の奥から在庫を取り出して並べていた。 もちろん、俺も両親や店のスタッフに買った。 みんな山のように買っていた。 でもさすがにこれは送らないんだね。 外に出ると、17時くらいだけど、まだまだゆっくり散歩できる。 イタリアは明るいなあ。 かえちゃんが「すごく素敵な場所だったね」と言うから、 僕も照れて頷いた。 かえちゃんと手をつなぎながら、アルノ川沿いを散歩する。 ここでは皆で写真を撮り合った。 この日は陽一兄さんがホテルでワインを頼むというので、 そろそろホテルへ帰ることになった。

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