50 / 56
第50話 友則サイド・フィレンツェで再会
今日はベネツィアから高速鉄道に乗り、フィレンツェに向かう。
三年間修業した工房のみんなと、ついに再会できる。
イタリアに来れただけでもうれしいのに、
夢のファーストクラスに乗せてくれたり、
豪華な五つ星ホテルや三つ星レストランまで連れて行ってくれた。
いくら新婚旅行とはいえ、感謝しかない。
本当に一生の思い出になった。
陽一兄さんや颯太兄さんには、一生頭が上がらないよ。
だんだんフィレンツェに近づくと思うと、
胸の奥が静かに熱くなるのを感じていた。
「緊張してる?」
楓が小声で聞いてきた。
「うん……少しだけ。でも、楽しみだな」
フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅に到着すると、
石畳の街が僕たちを迎えた。
宿泊予定のホテルに向かうと……凄すぎて言葉を失った。
フィレンツェで一番高級な5つ星ホテルだった。
え~?そんな贅沢をしてもいいのかなあ?
工房の仲間にはとても言えない。
僕の修業時代は小さな屋根裏部屋で、
パンとチーズをかじっていたのに……。
先にホテルに荷物を置いてから出かけるということで、
荷物を置いた後、家族でランチへ向かった。
Trattoria del Giglio は、小さいけれど有名な店だ。
温かい木の梁と白いクロスが落ち着いた雰囲気をつくっている。
ここではフィレンツェ名物の T ボーンステーキ、
ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナが有名だ。
早速この店に来たけど、きっとみんな驚くよ。
二人でも食べきれないくらいの大きさだ。
オーダーを陽一兄さんから頼まれた。
いろいろ料理を取って、このステーキは二つ頼んだ。
シェアすれば十分だよ。
まずはノンアルで乾杯だ。
ステーキが運ばれてくると、
颯太兄さんが「でかっ……!」と目を丸くし、
陽一兄さんが笑いながら取り分けてくれた。
僕は懐かしくて、並んだ料理を見つめていた。
「友則君、いっぱい食べて。懐かしいでしょう?」
陽一兄さんが言う。
「はい、昔よく食べました」
「かえちゃんも食べよう」あ、しまった......。
「ええー?」
皆の注目を浴びてしまった。
ああ……まだ隠そうと思っていたのに……。
「えへへへ、あのね、お互いを、
“かえちゃん”、“ともちゃん”って呼ぶことにしたの。よろしくね」
楓さんが皆に言ってくれたから、助かった。
皆がくすくす笑っているから本当に照れくさかった。
「ええ?私たちだって、ねえ〜?」と紀子。
淳一兄さんが笑いながら照れまくっていた。
「え?なんて呼んでるの?」僕が聞くと、
「淳ちゃんとのりちゃんなんだよねえ」と紀子。
うわあ〜と皆で大爆笑になった。
「いいなあ〜俺も呼び方変えようかな?」と颯太兄さん。
今度は陽一兄さんが照れまくった。
「もういいよ、その話はまた今度にしようよ」
両手で顔を隠していた。
すごい照れ屋なんだね。
残念、これで終了した。
午後、皆でアルノ川沿いを歩き、
サン・フレディアーノ地区へ向かった。
そこに、僕が三年間修業した工房──
Bottega San Frediano──がある。
古い木の扉の前に立つと、
僕は一度深呼吸をした。
新妻がそっと手を握り、「大丈夫よ」と微笑む。
扉を押し開けると、
革の匂いと金槌の音が迎えてくれた。
最初に気づいたのは、
僕と同じ時期に働いていた仲間だった。
「……トモノリ?」
驚きの声が工房に響き、
次の瞬間、仲間が駆け寄って抱きしめた。
「お前、本当に来たのか!」
「元気だったか?」
イタリア語が飛び交い、
工房の空気が一気に温かくなる。
奥から親方が現れ、
腕を組んだままじっと僕を見つめた。
「トモノリ。立派になったな」
その一言に、僕の目が少し潤んだ。
「妻です。新婚旅行でこちらに来ました」
僕が新妻を紹介すると、
仲間たちは口々に祝福の言葉をかけた。
「兄妹同士で結婚したんだよ」と伝えると、
工房が一気に湧いた。
続いて家族全員を紹介すると、
親方は深く頷き、「いい家族だ」と静かに言ってくれた。
僕は日本から持ってきた、
上品な和菓子の詰め合わせを手渡した。
親方はすぐ開けて、皆も食べてくれた。
目を細め、
「日本の菓子もうまいよ。珍しいものをありがとう」
と笑った。
その後は皆で表に出て記念写真を撮った。
工房を後にすると、なんだか肩の荷が下りたようでホッとした。
「そうだ、皆さん、バッグや財布を買いたいでしょう?
良い所があるんですよ。行きますか?」
「行くーーー!」とかえちゃんが即答した。(笑)
それで、トルナブオーニ通りに寄ることにした。
夕方の石畳は少し金色に見える。
通りに入ると、すぐにきれいな色のバッグが目立つ革の店があった。
「あ、その店は良いと思いますよ」と薦めると、
みんなが一斉に店に入った。
陽一兄さんも颯太兄さんも、
「買い占めるのか?」と思うくらい買いまくっていた。
店主も大喜びで、どんどん店の奥から在庫を取り出して並べていた。
もちろん、俺も両親や店のスタッフに買った。
みんな山のように買っていた。
でもさすがにこれは送らないんだね。
外に出ると、17時くらいだけど、まだまだゆっくり散歩できる。
イタリアは明るいなあ。
かえちゃんが「すごく素敵な場所だったね」と言うから、
僕も照れて頷いた。
かえちゃんと手をつなぎながら、アルノ川沿いを散歩する。
ここでは皆で写真を撮り合った。
この日は陽一兄さんがホテルでワインを頼むというので、
そろそろホテルへ帰ることになった。
ともだちにシェアしよう!

